ピッチ幅を狭めた中国の“奇抜な戦略”...久保&遠藤が不利な局面を覆した。気になるのは起用法、藤田の2戦連続ベンチ外には疑問しか残らない

 日本代表は11月19日、北中米ワールドカップ・アジア最終予選の第6節で中国代表と敵地で対戦。3-1で勝利を飾った。

 中国代表のブランコ・イバンコビッチ監督に課されたタスクは、窮鼠猫を噛むようなものだったはずだ。

 最終予選が開幕すると日本に0-7の大敗でつまずき、一気に3連敗。しかし、そこから連勝して、グループ内では日本以外の混戦レースに参入してきた。できればせめて勝点1でも稼ぎたい困り果てたねずみは、とうとう通常使用の横のラインを左右合わせて3メートルほど狭め、守備の効率を高めてなんとか猫に嚙みつこうと発案したわけだ。

 奇抜な戦略は概ね功を奏した。中国が最も警戒したのは、日本のウイングバックの破壊力だったはずだ。

 埼玉スタジアムの試合では、左から三笘薫、右サイドでは堂安律と久保建英がポジションを変えながら次々に仕掛けて脅威となった。そこで中国は、日本のウイングバックにSBを対峙させると、同サイドのMFを素早くスライドさせ2対1の数的優位を担保しようとした。

 実際、右の伊東純也は、開始早々に縦に仕掛けながら自らタッチラインを割り、次もカバーに入った2人目に止められていたから、この時点でやり難さを感じたはずだ。また左サイドで張る右利きの中村敬斗も、孤立気味でカットインのコースを消され、序盤は打開策を探しあぐねた。

 幅が狭いので守備では3ボランチで待ち構える中国のスライドも速く、タッチライン際の狭い地域では何度も3対3程度の局地戦が繰り広げられる。中国側が受けた3枚のイエローカードはいずれもタッチから数メートルほど内に入った場所で、遠藤航が2度、久保が1度遅れて後方からチャージを受けたものだった。
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 幅の狭いピッチで中央を閉じられ、サイドでの優位性も失った日本は、さすがに手詰まりになった。最初のシュートまで25分間も要し、その5分後には田中碧のボールをインターセプトした中国が、ショートカウンターからフィニッシュに繋げる。

 埼玉では1本しかシュートを打てなかった中国が効果的な攻撃を見せたことで、スタジアムは盛り上がり、チーム内にも勇気が漲る。この直後にはスタンドからファンが乱入してきたから、国際試合では異例な入場者の行儀の悪さも含めて、想定外の出来事が勃発する不穏なムードが加速した。

 だが日本は、間もなく嫌な空気を断ち切る。前節のインドネシア戦を休んだ久保がはつらつと違いを見せ、カットインからゴールを襲う。これはGKに阻まれたが、獲得したCKから小川航基の先制点が生まれた。日本はその後、前半終了間際にもCKから追加点を奪えたので、課題とされてきたセットプレーが苦境を救った。

 2ゴールの小川が重要な貢献をしたのは言うまでもないが、勝利を牽引したのは久保で、支えたのは遠藤だった。

 シャドーに入った久保は、適宜状況を把握し、ポジションを移しながら賢く攻守に質量のどちらももたらした。一方で遠藤は、絶えず危機察知を研ぎ澄ませ、ボール奪取、デュエル、奪った後の強烈な推進力で不利な局面も覆した。

 敗れた中国にも、今までよりは未来への希望が見えた。帰化選手を軸にしたインドネシアと異なり、指揮官が自国選手の起用を優先し、埼玉のアウェー戦から短時間で著しい改善を示した。

 もし、こうしてイバンコビッチ監督のような伝導が浸透すれば、いつか再び日本を脅かすような日が訪れるのかもしれないが、それが文化的に可能な国なのかは未知数だ。

 しかし早くもワールドカップをほぼ手中にした日本も、森保一監督が掲げる世界一に確実に近づけているという裏付けはない。まだ欧州の正真正銘のトップチームで軸を成す選手はいないし、序列ばかりに固執した起用も気になるところで、実情はうかがい知ることが出来ないが、藤田譲瑠チマの2戦連続ベンチ外には疑問しか残らない。

 今がベストだと思った途端にチームの勢いは止まる。歴史的にも連勝や無敗記録を樹立した優勝候補が、ワールドカップ本番で失速したケースは少なくない。

取材・文●加部究(スポーツライター)

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