『カメラを止めるな!』が大ヒットを記録した上田慎一郎監督。その監督が『カメ止め』前から映像化を切望していたのが、マ・ドンソク主演の韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師〜38師機動隊〜」の原作を日本風にアレンジした映画製作。その夢が叶い完成した映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』は、冴えない公務員【熊沢二郎】がひょんなことから天才詐欺師【氷室マコト】と組んで脱税王から大金を騙し取るというもの。主演には監督ラブコールを受けた内野聖陽、共演に岡田将生、川栄李奈、森川葵、後藤剛範、上川周作、鈴木聖奈、真矢ミキ、小澤征悦ほかバラエティに富んだ豪華キャストが名を連ねています。今回は、この作品で気弱な公務員から正義感溢れる男に変化していく主人公を演じた内野聖陽さんにお話を伺います。
――完成した作品を観てどんな感想を持たれましたか。
現場が面白すぎるというか、珍道中だったので「この作品、大丈夫?」という感じだったんです(笑)。でも出来上がった作品を観たら「これ、けっこう面白いじゃん!」と思えました。
――内野さんは脚本の段階から参加されていたとお聞きしています。
参加といいますか‥‥今思うと、巻き込まれたって感じですかね(笑)。脚本を書くのは上田(慎一郎)監督なんだけど、脚本の基となったマ・ドンソク主演の韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師〜38師機動隊〜」は全16話あるのに、それを1本の映画にするという暴挙、そこからしてちょっと「君、いい加減にしたまえ(笑)」と言いたくなるくらいの企画だったんです。それを果敢に1本にしてくるから、最初はちょっとてんこ盛り過ぎて「これでは、わけがわからない」というところから始まっているんです。
(脚)本の打ち合わせは僕が参加したのは十数回くらいでした。もちろん、僕が演じさせて頂く【熊沢二郎】というキャラクターがメインの話だったのですが、途中から劇全体に関わること、例えば「ここはどうなの?」「ここ凄く面白くなったけど、ここはちょっと弱くない?」「この部分は不親切なんじゃないかな?」などそんなトークを毎日ではありませんが、出会ってから撮影が始まる前まで、ひたすら延々と上田監督としていました。
――そういう経験は今までもあったのですか。
ないです。今回は上田監督の人間性がそうさせたんだと思います。上田監督は熱意の塊なんです。脚本が改訂されると1稿、2稿、3稿と数が増えてくのだけど、リニューアルされる度に、凄く精度が上がってくるんです。“前回はネジがゆるかったのに、締めあがってる”みたいな感じで(笑)。本当に上田監督のガッツと気迫、「どうしても、この映画を面白いものにしたい!」という熱意が私にそういう行動をさせたんだと思います。
――本当にそれぞれのキャラクターに見せ場があって面白かったです。内野さんもその辺のアイディアを入れ込んでいかれたのですか。
いや、アイディアというよりは「ここちょっとさみしくないかな?」とか「こんなにあっさりで大丈夫?」みたいなツッコミです。そのツッコミを聞いて、上田監督が新しい何かを持ってくる感じでした。全てではありませんが、そういう局面は何度かありました。
例えば、公務員の【熊沢二郎】がチームの一人一人に会いに行くところとか肝なので、僕が気になるところを上田監督に指摘していきました。いただいた僕の改定稿には、付箋紙が鬼のようについているんです。上田監督は僕の付箋紙だらけの改定稿を見て“今日もあの付箋紙に全部応えないといけないんだ”と戦々恐々だったそうです(笑)。
監督は本当に真摯な方で、話の基盤を一生懸命に考えていて、一人のキャラクターに対して「こんなストーリーがある。あんな歴史がある」というのを全員分考えているんです。でも、セリフだけではそれが凝縮され過ぎて捉えづらかったので、「この台本を役者さんに渡した時、役者さんには、そういうストーリーを説明した方が役者は演じやすいよ」と助言したり。彼のシナリオは、それぐらい長い物語を密度高く凝縮しているんです。
――だからあれだけの濃いキャラクター達が映画を彩っていたんですね。思えば内野さんはベテランでいらっしゃいますし、年下の監督&共演者とのお仕事も増えています。後輩となる方々とお仕事をご一緒される時にやっていることや、意識されていることはありますか。
やれることはやっています。でも、何だろうね。基本的には役者という領分を大事にしています。役者はただの表現者、プレイヤーですから、その部分からはみ出したくないと思っています。他人の領分を超えてまで何かものを言うのは、自分的にはあまり良からぬものと思っています。今回は上田監督の方から「一緒にクランクイン前から、ガッツリお話させて下さい。リハーサルもしたいです」と提案を頂いたので「わかりました。やりましょう」という流れになりました。僕は基本的には演技以外のことで口を出したくないんです。ただのプレイヤーとして、色々と演じることでアイディアを出していきたいと思っています。
映画や舞台など感覚的な部分も多い世界なので、感性の世界を理詰めでトークしていくのは、あまり良くないと思っているのでそこは注意しています。「台本の中だけで完成度を求めてはいけない」と自戒したりもします。“ここはゆるく構えて、現場でそれぞれの役者さん達とのセッションの中で答えを見つけることが出来るんじゃないか”という感じで、演技の余白みたいなものをつけておくことは大事だと思っています。机上の議論で左脳優先で進めていくと、あまり良くないというのは、よくあります。
――私の中で内野さんは、癖のある役を隅から隅まで演じられる役者というイメージがあります。それは感性ではおさまらないと思うんです。役を演じる為にどのような準備をされているのですか。
役を演じる為に色々なことを考えてはいると思いますけど‥‥。今回に限っていうと【熊沢】は、一言で言っちゃうと【怒りを忘れた公務員】なんです(笑)。上田監督とのセッションの中で監督は、「【熊沢】というキャラクターは【怒りを忘れた公務員】です」と言われたんです。それで「怒りを忘れたとはどんな感じ?」と聞いたら「日常の中で怒ってはいけない局面が家庭でも仕事先でも多過ぎて、そうなると怒りというものが自分の生活の中では邪魔な存在みたいなものになっていくんです」と答えられたので、それを演技の中でどう表現すればいいのかを想像していくんですよ。
――キーワードを見つけて、それから色々と考えていかれるんですね。
そういうところもあるのかもしれません。つまりは、際限がないんです。“これを考えたけど、それならこれはどうなるの?”というふうに、僕の演技には方法論というか、決まったマニュアルがないんです。決まった作り方、マニュアルがあれば楽かもしれませんが、僕の場合、演じるキャラクターごとに自然に芋づる的に色々なところに手を伸ばして役を膨らませていく感じです。だから凄く時間がかかるんです。結果的に書斎に居る時間が長くなる。だから台本を読む時間も凄く長いです。1ページに5~6時間かけることもあります(笑)。そのパーツだけを見ていると見えなくなるので、わからないまま過ごして、先に全体を見ることもあります。ウロウロしながらブツブツしながら、例えるなら醸造中のお酒の泡がポコポコと出て来るみたいに、徐々に徐々に役を発酵していくような感じです。だから【役作り】という言葉は、個人的にはあまり好きではないんです。そんな人工的に作るものではなくって、役を寝かせて発酵させるみたいな感じだと思っています。
――『きのう何食べた?』では西島秀俊さんとタッグを組み、『八犬伝』では役所広司さん、今回の作品では岡田将生さんとタッグを組まれています。作品ごとに、バディとして見事な調和をみせられています。タッグを組むうえで大事にしていることはありますか。
「バディである」という自覚はありません。確かに、今あげられた作品はバディだと思いましたが、あまり考えてないかも(笑)。複数の役者で出演している場合は、それぞれの中でセッションをしていくけど、そのバディ的な存在、対一人となるとセッションが濃くなるんです。“こういう風にやれば、あっちはこう返ってくるだろう”というようなキャッチボール、セッションが普段よりも濃くなる感じがして楽しいです。
――演技を楽しんでらっしゃるんですね。
楽しまないと駄目ですね。でも、楽しむまでいくには、凄く大変な作業が必要で、たくさんの地味な作業をいっぱいして、その上でどれだけ現場で遊べるかが大事ですかね。相手とセッションするのが楽しいというところまでいくには、相当な努力が必要になるんです。楽しむまでが大変で‥‥、現場でとにかく共演者とのキャッチボール、セッションを楽しみたいんです。けれどもそこまでいくには、どれだけ充電しないといけないかとか、どれだけ失敗するかとか、いろいろありますね。だから書斎で脚本を見つめる時間は、凄く貴重で大きな時間です。
柔軟な演技で七変化する名優・内野聖陽さん。岡田将生さんとは初めての共演で「柔らかい愛されキャラを甘えも入れて演じるのが上手い方」と言っていましたが、現場では小澤征悦さんとも意気投合し、お互いを「セイちゃん」と呼び合っていたそうです。でも何故、小澤さんまで「セイちゃん」なのか?はラジオアプリを聴いていただくとして‥‥。内野さんが気弱な主人公を演じる姿が面白くして仕方がない。でもそれは内野さん同様、主人公のうちに秘めた熱さや優しさがあるからこそマッチした、ベストキャスティングもあってなのかもしれない。さまざまなタイプの登場人物に翻弄される内野さん演じる主人公【熊沢二郎】を楽しみつつ、スカッとする作品『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』は11/22公開です。
取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦
作品情報
映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
税務署に務めるマジメな公務員・熊沢二郎は、ある日、熊沢は天才詐欺師・氷室マコトが企てた巧妙な詐欺に引っかかり、大金をだまし取られてしまう。親友の刑事の助けで氷室を突きとめた熊沢だったが、観念した氷室から「おじさんが追ってる権力者を詐欺にかけ、脱税した10億円を徴収してあげる。だから見逃して」と持ちかけられる。犯罪の片棒は担げないと葛藤する熊沢だったが、自らが抱える”ある復讐”のためにも氷室と手を組むことを決意。タッグを組んだ2人はクセ者ぞろいのアウトロー達を集め、詐欺師集団《アングリースクワッド》を結成。壮大な税金徴収ミッションに挑む。
監督:上田慎一郎
出演:内野聖陽、岡田将生、川栄李奈、森川葵、後藤剛範、上川周作、鈴木聖奈、真矢ミキ、皆川猿時、神野三鈴、吹越満、小澤征悦
配給:NAKACHIKA PICTURES、JR西日本コミュニケーションズ
©2024アングリースクワッド製作委員会
2024年11月22日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開
公式サイト angrysquad