11月19日に廈門白鷺スタジアムで行なわれたワールドカップ・アジア最終予選の中国戦は、インドネシア戦に続いて難しい試合になったが、3-1で日本が勝利した。
2点を先行する展開で、49分に2-1に迫られるなど、危なげなく勝った試合ではなかったが、燃えそうになる火種を都度消すうちに、相手の体力が尽き、最後は危なげなく幕を引いた。
インドネシア戦ほどのチャンスを与えたわけではない。しかし、インドネシア戦ほどのチャンスを作ることもできていない。特に前半は内容が乏しかった。陣形のみならず、ピッチの幅まで3~4メートルもコンパクトにした中国のブロック攻略に、日本は手を焼いた。
今回の中国が敷いた4-3-1-2は、2トップの下で中盤4枚がひし形になるシステムだ。真ん中は厚いが、その半面、サイドに人がいないという、尖った特徴がある。
ビルドアップ側である日本は当然、空いたサイドからボールを運ぼうとするが、その瞬間は中国にとっても守備圧縮のタイミングだ。
鋭く全体をワンサイドへ寄せ、まるで初見でサイドが空いていたのが罠であるかのように、スペースを取り上げて窒息させる。そうやってサイドで追い込まれた日本が脱出を試みても、そのバックパスは2トップがプレスバックして制限。サイドへのスライドの速さが命のような守り方なので、その距離を減らそうと、ピッチの幅を狭くした中国側の意図はわからなくもない。
打開の糸口になったのは、後半序盤の中村敬斗のサイドチェンジだった。ウイングハーフが高い位置でボールを持ち、ドリブルの仕掛けを見せたときは、中国が最も中をコンパクトにするタイミングになる。そこへ、一発でサイドチェンジ。前半もこのような状況はあり、伊東純也や久保建英はフリーだったが、中村からのパスは出ていなかった。それを後半はねらい始め、54分に伊東のクロスから、小川航基が3点目のゴールを挙げた。
相手のサイド圧縮を逆手に取ってのサイドチェンジなので、効果は高い。ただ、こうした崩し方にたどり着くまで、時間はかかった。チャンスを与えすぎたインドネシア戦の反省もあるのか、前半はポジションを崩さず、リスクを抑制して戦っていた印象だ。
それでも、2-0である。
崩せていないけど、チャンスは少ないけど、CK(コーナーキック)2発によって、2-0で前半を折り返した。これは大きい。
【動画】久保の高精度CKから小川がドンピシャヘッドで先制弾!
中国のCK守備は、ストーン(ボールのはね返し役)を2枚置きつつ、基本的にはマンツーマンでマークするやり方だった。さらにマンツーマンの中でも、相手に密着して抑え込む傾向が強い。半面、ボールへの目線は切りがちだ。身体を見られているので完全にマークを外すのは難しいが、よーいドンでクロスに反応すれば、ボールを見ていない相手は必ず一歩二歩、遅れる。
この特徴にアウトスイングがはまった。日本は39分に久保が蹴った場面も、前半アディショナルタイムに伊東が蹴った場面も、2つの得点を挙げたCKはともにアウトスイング、つまり相手ゴールやGKから離れるように曲がるボール軌道だった。
インスイングの場合、ゴール方向へ曲がる軌道なので、合わせる選手は勢いを持ってゴールへ飛び込むことがポイント。しかし、そのゴール方向に立って身体を捕まえてくる中国の守備者がいるので、勢いよく走り込むのは困難だ。その点、アウトスイングの場合は、相手ゴールや相手から離れて曲がるボール軌道なので、フェイントを入れつつボールへ向かえば、一歩二歩の差で、先に触りやすい。日本は高さもある。
1点目の小川のゴールは、それが功を奏した得点だった。久保のキック精度もスペシャルだ。また2点目の場面は、ファーで合わせると見せかけた町田浩樹が、身体を抑えようとする相手の脇を90度ターンですり抜け、ニアでフリックし、板倉滉がファーで詰めた。
言葉で表すと簡単だが、実践するのは難しい。「一歩二歩遅れる」と言っても、それは合わせる選手がジャストのタイミングで動いた場合の結果だ。以前、とある元日本代表選手が、J1のクラブにCKの指導に行ったそうだが、大半の選手は早く動きすぎてマークを外せていない、と言っていた。キックと同時に動かなければ、相手は付いて来やすいし、スペースでボールを待つ形になって、相手に一歩二歩の差を埋められてしまう。
どうしてもセットプレーの得点は「流れの中からではないのですが」「セットプレーではあるけど」と謙虚な言い方になりがちだが、勝負事でこれほど大きな武器はない。崩すリスクをかけなくても、バランスを崩さなくても得点できれば、それに越したことはないからだ。見事なジャスト、2ゴールだった。
文●清水英斗(サッカーライター)
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