③「信頼区間」は?
仮に再発の割合が60%だとします。
(A)10人追跡して6人再発したから60%である
(B)1000人追跡して600人再発したから60%である
この2通りの計算式があった場合、結果の信頼性が高いのはどちらでしょうか。当然②の、追跡者数が多いほうが信頼性は高くなります。追跡者数が10人と小規模の場合、たまたま再発者がかたまって発生した、あるいは、たまたま再発者が含まれなかったというように、偶然の影響を受けやすくなります。
もし、世界中のうつ病の患者全員を追跡できたなら、真の再発者数を知ることが可能でしょう。しかし現実には不可能なので、研究では一部の人を選んで追跡調査を行います。このとき、実際に追跡調査をする集団のことを「標本集団」といい、その背後にあるうつ病患者全体の集団のことを「母集団」といいます。
母集団の結果については知り得ないため、標本集団から母集団の状態を推定するわけです。その信頼性の指標として、「信頼区間(CI:Confidence Interval)」というものを統計学的に計算します。
少し専門的になりますが、統計学的には「95%信頼区間」がよく用いられます。
これは、「100回同じことをくり返した場合、そのうち95回はどのくらいの範囲に入ってくるか」を推定したものです。後述しますが、求めるための計算式があります。
たとえば、(A)の10人規模の研究を100回くり返した場合、計算によると、95%信頼区間は31%~83%とかなり広くなります。このことは、10人中の再発者が3.1人から8.3人まで広い範囲の値をとることを意味し、60%(すなわち6人)とはかなり違う値になる可能性があります。
では、(B)の1000人規模の研究を100回くり返した場合はどうでしょうか。計算してみると、95%信頼区間は57%~63%と狭くなります。1000人中の再発者が570人から630人までの範囲に入り、60%(すなわち600人)に近くなりました。
小規模の研究から導かれる結果は偶然のばらつきが多く、信頼区間の幅が広くなります。一方、大規模の研究から導かれる信頼区間は狭くなります。信頼区間の幅が狭いということは、それだけ真実の値に近いことを意味します。
この信頼区間を求める計算は少し複雑ですが、「割合(比率)の信頼区間」などとネット上で検索すると、自動的に計算してくれるサイトがいくつも見つかりますので、興味のある方は試してみてください。
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センセーショナルな表現は疑ってみる
テレビや雑誌、ネットニュースなどでは、病気の発症や再発、あるいは治療の効果などの率や割合を示すにあたり、センセーショナルに、大げさに、恐怖感や危機感、または希望をあおる表現が非常に多くみられます。
そのような情報が気になるとき、これまでに挙げた3つの観点で冷静に考えてみてください。まとめると次のようになります。
①その数値は「率」なのか、「割合」なのか。もし「率」なら、その時間単位はどのように設定されているのか。
②そのできごとの「基準」や「定義」が示されているか。独自の基準を使って過大に、センセーショナルな表現になっていないか。
③何人の規模の研究から結果を述べているのか。小規模のデータに基づいたものではないか。
もし数値の読み取りが苦手であっても、情報に接しているときに「大げさな表現だなあ」と直感した場合は、これらのポイントが明記されているかを確認してください。
*1 Kato M, Hori H, Tajika A, et al. Discontinuation of antidepressants after remission with
antidepressant medication in major depressive disorder: a systematic review and meta-analysis. Mol psychiatry. 2021; 26(1): 118‒133.
*2 *1は、日本語論文で次にも説明がある。
・田近亜蘭、古川壽亮「うつ病治療のメタ解析」特集 臨床につながる気分障害研究最前線『臨床精神医学』(0300-032X)第51巻第10号、2022年10月、1171─1177ページ
・田近亜蘭、古川壽亮「うつ病治療における抗うつ薬の用量」特集向精神薬の用量『臨床精神薬理』(1343-3474)第25巻12号、2022年12月、1311─1317ページ
*3 Hardeveld F, Spijker J, De Graaf R, et al. Prevalence and predictors of recurrence of major depressive disorder in the adult population. Acta Psychiatr Scand. 2010;122(3): 184-91.
*4 田近亜蘭、熊谷成将、古川壽亮「新たなデバイスを活用した早期介入〜早期介入の港をより近くに〜スマートフォンアプリとウェアラブルデバイスを用いた、寛解期のうつ病患者の再発予測」『予防精神医学』7巻1号、2022年、3─12ページ
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