フィリピンで暗躍した犯罪組織に捜査のメスが入った。警視庁捜査2課が11月19日、窃盗容疑で逮捕したのは犯罪組織「JPドラゴン」の幹部、小山智広容疑者(50)ら3人。複数のメディアによると、小山容疑者は組織のナンバー3とされ、フィリピンを拠点にした特殊詐欺事件に関与した疑いがもたれているという。日本で頻発する「闇バイト」を使った特殊詐欺や強盗事件などとの関わりも指摘されているが、一体どんな集団なのか。
JPドラゴンの構成メンバーは…
黒色のパーカーのフードを目深にかぶったマスク姿の小山容疑者ら3人が成田空港に姿を見せたのは11月19日午後のこと。フィリピンから強制送還された小山容疑者らの身柄は警視庁へと移され、これから本格的な取り調べが始まる見込みだ。
「JPドラゴン」という組織の名前が急浮上したのは、2022年から23年にかけて全国で相次ぎ発生した強盗事件への関与が明らかになった、ある犯罪グループとの接点からだ。
「SNSなどを介して募った闇バイトを実行犯として、フィリピンから指示を飛ばして荒稼ぎしていたグループの存在が明らかになりました。
指示役とされる男らは現地の収容所から秘匿性の高い通信アプリ『テレグラム』で、特殊詐欺や“タタキ(強盗)”の指示を飛ばしていた。
23年2月にグループのメンバーが一斉に強制送還され、警視庁に逮捕されたのですが、小山容疑者が、このうちの1人とスマートフォンのビデオ通話を通じて接触したことが判明。
警視庁側はこの時、犯罪グループのバックに、いわゆる“ケツ持ち”のような形で小山容疑者らJPドラゴンが付いていることを確認し、捜査を進めていったのです」(全国紙社会部記者)
警察庁は2023年7月、続発した闇バイトによる強盗事件などを受け、「SNSを通じて募集する闇バイトなど緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す集団」を「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と定義し、取り締まりの強化に乗り出した。
警察当局は、半グレに次ぐ新たな組織犯罪の類型にトクリュウを加えており、フィリピンを拠点とした犯罪グループと、その上部組織という位置づけだったJPドラゴンの摘発も、「トクリュウ」捜査の延長線上で行なわれたとみられる。
では、にわかにその存在が明るみに出たこの組織は一体誰が、どのようにして作ったものなのか。現地事情に詳しいある暴力団関係者はこう明かす。
「あいつらのことを知ったのは今から10年ほど前のこと。現地で飲食関係のトラブルがあって相談を持ち掛けられて間(仲介)に入ったのがきっかけだった。
JPドラゴンと名乗って組織として動き出したのは、それからしばらく経ってからだったと思う。もともと神戸山口組系の組織にいた人間が作ったみたいで、名前に『竜』がつくもんだから“ドラゴン”、それにジャパンの“JP”をつけたって聞いた。
現役(のヤクザ)もいるかって? いやぁ、いねえだろう。基本的には、破門になったり、追い込みがかかったりして組織にいられなくなった連中が集まって作ったモンって感じかな。
シノギ? オレが聞いたのは、たとえば日本人相手の店に中国人とか使ってガタくわせて(言い掛かりをつける)、間に入るんだよ。『こっちが面倒みてやる』って。それでみかじめ取ったりはしてたようだ」
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トクリュウの犯罪拠点の確保にも関与か
約20年前からフィリピンと日本を行き来し、現地の裏事情にも精通している別の暴力団関係者は、JPドラゴンと日本の組織との関係性をうかがわせるような光景を目にしていたという。
「不良の界隈でJPドラゴンという名前を聞くようになったのはここ数年の話ですが、もう10年以上も前に、マニラのマリーナに“菱”のマークが入った船が止まっているのを見かけたことがありました。
菱は山菱、いわゆる山口組の代紋です。知り合いに聞いたら、『山健組系の組にいた人間がこっちに来ている』という話で、今回JPドラゴンといわれているグループはどうもその界隈の人間のようです。
彼らは、フィリピンに逃げてきた組織の人間なんかをアテンドしたり、日本人相手のKTV(カラオケクラブ=いわゆるキャバクラ)のケツ持ちなんかをシノギにしているという話でした」
関係者によると、フィリピンには振り込め詐欺などの電話を掛ける“掛け子”や、詐欺集団を取りまとめる“指示役”のアジトが点在している。
フィリピン各所でビルの一室やコンドニミニアムを借り上げるなどしているとみられるが、そうした犯罪拠点の確保にもJPドラゴンの関与が疑われているという。
さらに、組織の活動が活発化した背景には、捜査当局による暴力団の取り締まり強化とも連動した組織再編の動きが絡んでいるともみられる。
「山口組の分裂抗争です。内紛によって六代目山口組と神戸山口組の二派に分裂したことで、組からの離脱者がフィリピンに渡ってJPドラゴンに加わるケースが増えたという話です。
フィリピンは当局の締め付けも緩く、警察官らによる汚職や不正が横行している。現地の当局者とのコネを使いやすく、現地に入り込んでいる中国や韓国のマフィアとの連携も取りやすい。
拳銃なんかも44口径のコルトが日本円で3万円ぐらいで手に入るし、ヤクザ者にとっては天国みたいな場所です」(前出の暴力団関係者)
まさに日本とフィリピンの裏社会が地続きとなっていたわけで、今回の逮捕劇でその一端が明るみに出た格好だ。
海を越えた犯罪コネクションの実態解明はまだ、とば口に立ったばかりだ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班