森永卓郎(C)週刊実話Web
国民民主党が選挙公約として掲げた「103万円の壁」の引き上げに関して、自民党と国民民主党の協議が始まった。
国民民主が要求する178万円への引き上げは無理でも、50万円程度の基礎控除引き上げが実現するのではないかという見立ても出ている。
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ただ、私にはずっと懸念していたことがある。それが「106万円の壁」をどうするのかだ。
パートタイマーなどの給与所得者の年収が103万円を超えると所得税の支払いが発生する。
しかし、その税金は103万円を超過した分の5%からで、地方税を含めても15%だ。
ところが、106万円を超えると社会保険料がかかる。しかも106万円を超過した分ではなく、年収全体に30%がかかるのだ。
その半分が企業、残る半分が労働者負担だから、税負担よりもはるかに大きい。
つまり、103万円の壁が引き上げられて調子に乗って労働時間を増やすと、社会保険料負担が発生して逆に手取りが減ってしまうのだ。
そうしたことを防ぐ最も単純な方法は、103万円の壁の引き上げ幅と同額を106万円の壁も引き上げることだ。
しかし、事態はそう簡単に進みそうにない。厚生労働省が106万円の壁そのものを撤廃して、週20時間以上働くすべての労働者に社会保険料納付の義務を課す方向で最終調整に入ったからだ。
200万人のパート収入が減少の本末転倒
現在、最低賃金の全国平均は1055円だから、実質的に年収110万円を超えるすべての労働者が社会保険料を支払うようになる。
106万円の壁と言っても、これまでは従業員50人以下の企業のパートタイマーは年収130万円までは社会保険加入の義務がなかった。
ところが、厚労省はその企業規模要件も撤廃するという。
この制度変更によって、新たに200万人ものパートタイマーに社会保険の加入が義務づけられ、手取り収入が大幅に減少することになる。
国民民主の公約は労働者の手取りを増やすことで、パートタイマーに関しては無税・無保険料で働ける労働時間を増やすというものだった。
だが厚労省は、どさくさに紛れて、とんでもない負担増を課そうとしている。まさに「火事場泥棒」そのものなのだ。
私は、どうせそこまでやるのなら、週20時間という最低労働時間条件や保険料が増えなくなる年収上限の条件も撤廃して、とにかく1円でも稼いだら30%の保険料を取りますよというように制度改正をしたほうがましだと思う。
そうすれば、年金未納の問題もなくなるし、現在、保険料を支払っていない専業主婦への批判もなくなる。
ただし、この制度を導入するためには、保険料の課税ベースを収入から経費を差し引いた後の所得に変更する必要がある。
自営業者やフリーランスに収入ベースの保険料を課したら、みな潰れてしまうからだ。
税金は収入ではなく、所得にかかっているのだから、できない相談ではないだろう。
いずれにせよ、106万円の壁撤廃に関しては、短期的な対応と同時に、中長期的にどうするかという抜本改革の構想が不可欠だ。
どさくさ紛れの負担増を許してはならないのだ。
「週刊実話」12月5・12日号より