[本田泰人の眼]どれだけ相手の嫌がるプレーができたか。小川航基にスタメンを任せるのはリスクがある。スーパーサブが最善手だろう

 2026年北中米ワールドカップのアジア最終予選第6戦。日本は11月19日にアウェーで中国と対戦し、3-1で快勝した。元日本代表で鹿島アントラーズのレジェンド、本田泰人氏は、この試合をどう評価したか。

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 日本がセットプレーを活かして中国をねじ伏せた。

 ピッチの横幅が通常の68メートルより3メートル狭いのが影響したのか、立ち上がりから日本は中国の激しいプレスに苦しんだ。

 3-4-2-1システムの日本は、両ワイドの中村敬斗と伊東純也のランスコンビを起点にサイド攻撃を仕掛ける一方、中国は4-3-1-2システムの「4バック+3ボランチ」の守備的戦術で応戦。

 身体を張ったディフェンスに、容赦のないファウル覚悟のタックル…。これぞ最終予選! といった試合展開になった。

 そんななか、日本を救ったのは、インドネシア戦に続いて1トップのスタメンに入った小川航基だ。

 39分、久保建英の左コーナーキックに頭で合わせて先制点をもたらすと、2-1で迎えた54分には伊東のクロスにこの日2度目のヘディングシュートをネットに突き刺した。
 
 この2ゴールによって小川は代表キャップ9試合にして9ゴール。その得点能力の高さを存分に証明した。

 日本の2点目もセットプレーから奪ったものだ。前半アディショナルタイムに伊東の右コーナーキックをニアサイドで町田浩樹が頭でそらし、ファーサイドに詰めていた板倉滉が頭で押し込んだ。

 オーストラリア戦のオウンゴール以来の失点を喫したのはいただけないが、苦しい時に飛び道具として求めていたセットプレーからゴールを奪えたのは、素直に評価できるだろう。

 しかし、勝利の喜びに水を差すわけではないが、小川に関して言えば、インドネシア戦同様、中国戦もゴール以外で目立った活躍ができなかった。

 1トップとして、前線でのキープやポストプレーを何回見せられたか。ビルドアップでの役割を果たせなかったのは減点材料だ。空中戦に強さを見せているとはいえ、アジアレベルの話。世界の強豪国を相手にどれだけ通用するか未知数だ。やはりターゲットやポストプレーをこなせる上田綺世がスタメンの一番手だろう。

 森保一監督が上田不在でも1トップにこだわるならば、前回のコラムでも触れたが「ゼロトップ」を採用しても良かったのではないか。

 具体的には、2列目の久保、鎌田大地、堂安律を並べる形だ。なかでも鎌田は中国戦でも見せていたように、ひとつ下がってボールを受けられる。前線でフラフラしながらスペースを見つけてプレーする彼のスタイルが活きるはず。中国戦でこそ、密集地帯の守備陣をこじ開けることができたのではないか。

 これからも上田不在の試合があるかもしれない。その時のために、次の最終予選ではゼロトップなどのオプションを試してほしい。

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 1トップ以外で気になった点は、3バックの右サイドだ。

 インドネシア戦は橋岡大樹、中国戦は瀬古歩夢が入った。橋岡は不安定な守備が目立ち、攻撃でもビルドアップで正確性を欠いた。一方、瀬古は前線へ精度の高いパスを出せないものの、守備は無難にこなせていた。

 とはいえ、小川同様、瀬古もポジション争いの序列を覆すほどの出来ではなく、谷口が戻ればベンチを温めることになるだろう。

 田中碧もしかり。中盤での不用意なボールロストでピンチを招くなど、攻守の安定感を見れば、レギュラーの守田英正のほうが上だ。

 守備の選手は、どれだけ相手に嫌なプレーをさせないか。攻撃の選手は、どれだけ相手の嫌がるプレーをするか。この評価基準で考えると、守備は遠藤航、攻撃は久保や伊東があてはまる。

 特に、遠藤は中国のプレッシャーを物ともしないし、当たり負けしない。球際でも強い。スペースを埋めては、チームをオーガナイズしていた。遠藤がいなければ違った結果になっていたはずだ。

 攻撃では久保の安定感が際立った。試合後、久保は「とにかく(ピッチが)狭かった。欧州のチームよりも(プレスが)速いイメージがあった」などと話していたが、そのなかでも対応し、狭いスペースに顔を出しては伊東とのワンツーやスルーパスなど“違い”を作り続けた。

 精度の高いキックでコーナーキックから1アシストを決めたのも評価できる。また、伊東は安定の運動量と正確なキックで小川のゴールをアシストしている。

 繰り返しになるが、小川の場合、得点以外の場面でどれだけ相手の嫌がるプレーができたか。もちろんフォワードは点を取ってなんぼのポジションだが、サッカーはチームスポーツだ。メッシやエムバペのようなスーパーなフォワード以外は、味方に合わせるプレーができないフォワードにスタメンを任せるのはリスクがある。

 野球のようにDH制度があれば、セットプレーの時だけピッチに立ってプレーできるが…。現実問題、最終予選以降を見据えれば、小川はスーパーサブとして起用するのがチームにとっての最善手ではないか。彼の得点力は、オプションの一つとして計算できることは、この11月シリーズで証明された。さらなるレベルアップに期待したい。
 
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 本田泰人氏の中国戦の採点は以下のとおり。

▼先発
GK 1鈴木彩艶 6.0
DF 4板倉 滉 6.0
DF 16町田浩樹 6.0
DF 22瀬古歩夢 6.0
MF 6遠藤 航 7.5MOM
MF 8南野拓実 5.5
MF 13中村敬斗 5.5
MF 14伊東純也 6.6
MF 17田中 碧 5.5
MF 20久保建英 7.0
FW 19小川航基 6.5
▼途中出場
MF 15鎌田大地 6.0
MF 7三笘 薫 6.0
DF 3橋岡大樹 6.0
FW 9古橋亨梧 6.0
FW 11前田大然 6.0

森保一監督 6.0

※採点は10点満点で「6」を及第点とし、「0.5」刻みで評価。
※MOM=この試合のマン・オブ・ザ・マッチ

【著者プロフィール】
本田泰人(ほんだ・やすと)/1969年6月25日生まれ、福岡県出身。帝京高―本田技研―鹿島。日本代表29試合・1得点。J1通算328試合・4得点。現役時代は鹿島のキャプテンを務め、強烈なリーダーシップとハードなプレースタイルで“常勝軍団”の礎を築く。2000年の三冠など多くのタイトル獲得に貢献した。2006年の引退後は、解説者や指導者として幅広く活動中。スポーツ振興団体『FOOT FIELD JAPAN』代表。

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