80年代ビートルズファンの気持ちを歌った「缶ペンケース」


缶ペンケース実物。未使用の鉛筆もある

竹部:いい思い出だよね。そのあたりの思い出話を曲にしたのが「缶ペンケース」ってこと?

大塚:そう。あれはニーネじゃなくて、ソロの曲なんだ。 友達とコラボでアルバムを作ろうって話になってね。その友達もサードクラスってバンドがあるんだけどソロで。僕もソロでっていう話になって、完成させたの。ちょっと軽い気持ちでリラックスして作ったんだ。

竹部:いい曲だよね。オチもいいし。

大塚:それまで思い出をテーマにした曲って作ったことがなかったのよ。それで最初から思い出を曲にしてみるかっていうんで作ったんだけど、心のどこかで「イン・マイ・ライフ」を意識していると思う。

竹部:当時のビートルズファンの心情、情景が浮かんでくるよ。 60年代、70年代のファンの人がその思いを形にした人ってたくさんいるじゃない? それこそ松村雄策さんとか。我々世代はそういう文章をたくさん読んできたわけだけど、80年代のことを書いた人はいなくて。80年代にもビートルズに狂っていた人がいるんだぞっていうことを表した意味でもこの曲は貴重ですよ。

大塚:そうだね。中学生、高校生時代は完全ビートルズだったから。高校の学園祭でもビートルズのコピーやったよ。「プリーズ・プリーズ・ミー」の♪カモン、カモンのコール・アンド・レスポンスをお客さんがしてくれてね。

竹部:80年代にビートルズのカバーやっているバンドは少なかったでしょ。

大塚:バンドが好きな子たちはRCやBOØWYが好きなんだよね。だからちょっとビートルズをバカにしてるのよ。古い音楽だっていうんで。♪カモン、カモンって言ってくれても、ちょっとふざけてるというか、笑って言ってるみたいな。

竹部:自分もバンドをやっていたんだけど、「デイ・トリッパー」はビートルズではなくてチープ・トリックのバージョンでコピーしてた。当時、白井貴子の『オールナイトニッポン』があって、そのオープニングがチープ・トリックの「デイ・トリッパー」だったの。かっこよくてね。

大塚:ラジオで思い出したけど、リンゴの『イエロー・サブマリン』っていうラジオ番組を聞いてたよ。番組半分をリンゴがビートルズ時代の思い出をしゃべっていて、そのあとに日本人が翻訳してくるっていう番組だった。

竹部:それは聞いてなかった。でもなんとなくうっすら記憶にあるけど。なんで聞いてなかったんだろう。

大塚:中3の頃だから84年かな。リンゴのパートはずっと英語だから聞いていてもわからないんだよ。

竹部:そんな内容だったんだね。当時は新聞のラ・テ欄でビートルズって名前を見つけると必ずチェックって感じだよね。

大塚:そうそう。『アニメ・ザ・ビートルズ』ほんとによく見てたな。

竹部:局はどこだった?

大塚:テレビ東京かな。TVKかも。おれ、マニアックだったからUHFが観られるように家の屋根に自分でアンテナを取り付けちゃったんだ。テレビ埼玉が見たかったら埼玉の方向にアンテナを向けて、千葉テレビが見たかったら千葉の方向に向けて入った。でもギリギリ見られるぐらいなんだけど。TVKはまあまあ見えたよ。

竹部:じゃあ『ファントマ』とか見てた。

大塚:覚えはあるね。

竹部:自分は子どもの頃野球が好きで、野球中継目当てにTVKのアンテナ付けてもらったの。大塚くんのように器用じゃないから親に頼んで電気屋にやってもらったよ。だけど途中からロックが好きになったものだから、TVKは完全に音楽目当てになってしまった。『アニメ・ザ・ビートルズ』もやっていたと思う。

大塚:『アニメ・ザ・ビートルズ』はいいんだよ。

竹部:かなり子ども向けだけどね。話を戻すけど、「缶ペンケース」を発表出来てよかったね。

大塚:あの曲のおかげで思い出を歌えるようになったんだ。あれがきっかけなんだ。

竹部:これがビデオクリップにも出てきた缶ペンケースだね(持参してもらった缶ケースを見ながら)。デザインがいいよね。

大塚:うん、かっこいいよね。裏にたけし軍団のシールが貼ってあるんだけど貼った記憶がないんだよ。

竹部:初期のたけし軍団だね。でもこの缶ペンケース、ノンライセンスだもんね。時代を感じさせるな。それにしてもよくとってあったよね。鉛筆は未使用だよ。

大塚:捨てられないんだ(笑)。ビートルズは特にそう。

缶ペンケース/大塚久生(ニーネ)

https://www.youtube.com/watch?v=d2n9kXopAi4

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とにかく歩き回ったリバプール名所観光


リバプールのギターのオブジェの前で

竹部:最近のビートルズライフはどうなの? ずっとマニアなファン心が続いてる? そういえば、リバプールに行ったんでしょ?

大塚:2016、7、8年かな。イギリスに住んでいる友達に会いに行って、その足でリバプールまで行ったんだ。友達にも付き合ってもらってね。早朝ロンドンを出て、午前中にリバプールに朝着いてそこから7、8時間歩き続けたよ。帰りだけバス乗ったけど。

竹部:リバプールの話をすると皆たくさん歩いたってことになるんだ(笑)。

大塚:まず駅からジョンが通っていた学校まで歩いて、そこからジョンがシンシアと住んでいた家の前まで行って。さらにそこからリンゴの家、ペニー・レイン、ジョンの家……。昔買った『ビートルズ事典』を参考にして。全部歩きで回ったんだよね。遠かったよ。

竹部:そりゃ遠いよ(笑)。でも歩けそうな気持になるのもよくわかる。

大塚:あとストロベリー・フィールズやジョンとポールが初めて会った教会にも行ってエリナー・リグビーの墓も探したし。ジョンとシンシアが住んでた部屋を見たときは興奮したよ。ちょうどツアーバスが止まっていて、バスのガイドの人が教えてくれたの。

竹部:ほかに気に入った場所は?

大塚:ペニー・レイン。歌の印象と全然違うって思った。あれが意外。もっと賑やかなところだと思ったら通ったら悲しい感じの商店街で。ジョージとポールの家は行けなかったんだけどね。

竹部:結構回った方だと思うよ。

大塚:あとは朝ごはんが印象に残ってるな。豆の煮たのに卵とソーセージ。おいしかったよ。

竹部:イングリッシュ・ブレックファスト。いいよね。

大塚:そのあとグラスゴーまで行ってベル・アンド・セバスチャンのライブを見たんだ。

竹部:北上していったんだね。

大塚:うん、よかった。ロンドンでもいろいろ行ったよ。ジミー・ペイジの家、フレディ・マーキュリーの家、 キンクスのマスウェル・ヒル。パブも行ったし、コンク・スタジオも。

竹部:UKロックファンにはたまらないね。

大塚:そうそう。ミックとキースが会ったというダートフォード駅も行ったよ。

竹部:すごく充実してるじゃない。

大塚:そのあと、友達が亡くなってしまったから忘れられない旅になったよ。

竹部:今もビートルズ愛は変わらないと。

大塚:一時期より強くなっているかもしれないね。またいろいろ買ったりして。こないだはマル・エヴァンスの自伝買ったよ。まだ出だししか読んでないけど。

竹部:ビートルズの本はだいたい値段が高いから分厚くて重くて、持ち運びに不便だからなかなか読み進められないんだよね。電車の中で読めない。

大塚:汚したくもない。でも本とレコードはいまだにずっと買っちゃうんだ。メルカリやヤフオクでブートも買ってるし。ジョンが好きだから、ジョンのブートは今も買ってるし。

竹部:もう貴重な音源はないんじゃないの。そういえば当時『ロスト・レノン・テープス』も買ってた?

大塚:一応、一通り聞いたよ。20巻。びっくりしたよね。

竹部:じゃあ「ナウ・アンド・ゼン」も聞いてたと。

大塚:もちろん。「リアル・ラヴ」も「フリー・アズ・ア・バード」も『ロスト・レノン・テープス』で聴いてたよ。

竹部:「ナウ・アンド・ゼン」って、うまい具合にポールが補作しているよね

大塚:そうだね。『ロスト・レノン・テープス』を知っている人からするとポールは自分が作ったと勘違いしているパートもあるような気もするけど、そもそもビートルズの曲って、クレジットは全部レノン=マッカートニーだからどっちが作ったのかは謎だよ。どっちが作ったかなんてどうでもいいから曲を作ろうって思ったのかも。

竹部:「ナウ・アンド・ゼン」はそんなことがうかがえるよね。

大塚:ニーネでもよくあるんだけど、曲を共作しているとどこが自分でどこが別の人間なのかわからなくなってしまうこともある。ジョンとポールもそんなことがあったんだと思うんだ。「イン・マイ・ライフ」なんか、ポールは自分が作ったって言ってるじゃん。

竹部:言ってるね。でも「イン・マイ・ライフ」のイントロって、アコギで弾いていると「ブラックバード」になるんだよね。

大塚:なるほどね。でも僕はジョンの作品だと思う。

竹部:そういえばYouTubeで見たんだけど、大塚くん「抱きしめたい」歌ってたね。

大塚:絶叫しているやつだね。

竹部:ビートルズはパンクだったからね。歌ってみてどう? なんか他の曲と違う?

大塚:「抱きしめたい」はすごいよ。まずあんなイントロほかにないよ。何それ?ってイントロ。 1番2番も普通じゃないけど、展開から違和感なく転調するんだよね。で、イントロのリフを持ってきて無理やり頭に戻る。

竹部:マイナーになるところでポールが目立つもんね。

大塚:そうそう。ジョンってポールの見せ場を作るよね。ポールはジョンの見せ場は作んないのに(笑)。

竹部:あれってジョンの性格、難しいことや面倒なことは他人に頼っちゃうキャラが出てるんじゃないかって思うんだけど。

大塚:僕は逆で、グループとしてもう1人の見せ場を作ってる気がして。「ハード・デイズ・ナイト」でもサビをポールにやらせているじゃん。あれは見せ場をあげてるんだと思うんだ。

竹部:単に声が出ないからじゃないの(笑)。「イフ・アイ・フェル」は? 最初はジョンが主線を歌っているのに途中からポールが主線を歌うって、わけわからなくなるよね。自分は高いところが歌えないから、あとは任せるみたいな身の丈をわきまえているというのか。

大塚:リーダーシップだと思うよ(笑)。ポールって、それしないじゃん。

竹部:しないね。

大塚:自分の曲で人の見せ場は作らないじゃん。そう言う意味でもバンドのリーダーはジョンだなって思う。そういうこともわかって、『ハード・デイズ・ナイト』ってアルバムは完璧だなと思うようになったな。

竹部:自分も一周回って好きなアルバムは『ハード・デイズ・ナイト』。

大塚:ジョンの元気の良さが半端じゃないよね。

竹部:4人が仲いいじゃない。しかも若いし、かわいいし。

大塚:ジョージが歌う曲を作ってあげたのもジョンだよね。たぶん。そこがファンとしてはうれしいんだよね。アルバム『ハード・デイズ・ナイト』はポールの曲もいいんだよね。「アンド・アイ・ラブ・ハー」「明日の誓い」。

竹部:リンゴのボーカル曲がないけど。

大塚:確かにね。ほんとだ。


リバプールのペニーレーンの標識の前で