11月17日、ウクライナに対し、米国が供与した射程300kmにも及ぶミサイル「ATACNS」によるロシア領内への攻撃を承認した米バイデン大統領。これを受けロシアのプーチン大統領は19日、核兵器使用の基準を従来よりも引き下げる「核抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)の改定版を承認する大統領令に署名したと報じられた。
プーチン氏が初めて「ロシア連邦核ドクトリン」を公開したのは2020年6月のことだが、文書には“核兵器を保有する国から攻撃された場合にのみ核兵器で対抗する”という記述が明記されていた。しかし、プーチン氏は9月に行われたロシア安全保障理事会の会合で、突如、核抑止原則の更新を提案している。
「結果、今回の改定版発効となったわけですが、改定版では核攻撃の根拠を従来の『核兵器保有国からの核兵器による攻撃』という文言から、『核保有国の支援を受けた非核保有国によるロシア連邦とその同盟国に対する侵略』と変更。つまり、欧米諸国から供与されたミサイルをウクライナがロシアに対し使用すれば、ロシアは核攻撃も辞さないと改めて強く警告したというわけです。国際世論の反発を考え、ロシア政府は建前上、国の核政策の基本は従来通り専守防衛と強調しているものの、今回の改定で第3次世界大戦勃発の脅威が高まったことは間違いありません」(国際部記者)
現時点でロシアと米国は自国の核弾頭の数を1550以下に制限。その運搬手段(大陸間弾道ミサイル、潜水艦搭載弾道ミサイル、重爆撃機)についても、数を700以下に制限しているとされる。
「もちろんロシアが所有する核ミサイルの保管場所は軍事機密のため明らかにされていません。ただ、情報筋によれば、モスクワやサンクトペテルブルク、ウラジオストク、サラトフなどの都市近辺にもミサイル師団や爆撃機基地、核貯蔵施設が存在するとされ、そこには計1000の核弾頭が配備されているとされています」(同)
そしてもう一つ、ロシアが核ミサイルを隠している場所がある。それが、数千メートルの深海だ。
「ロシアは核弾頭を搭載した複数の原子力潜水艦を保有しており、それが数千メートル下の海底を行き来しているとされます。常識的に考えて、核ミサイルを配備している施設が敵側に知られ攻撃されれば甚大な被害が出る。しかし海底を常に移動していれば、まず見つかることはない。しかし、そのためには深い海が必要なので、ロシアの原潜はオホーツク海に潜んでいると言われます。地政学には『海を制するものが世界を制する』という言葉がありますが、だからこそ、ロシアとアメリカはそれを体現している国と言えるでしょう」(同)
11月11日、防衛省・統合幕僚監部が、北海道の宗谷岬の北東80kmの海域で、海上自衛隊がロシア海軍のヤーセン級原子力潜水艦を初確認したと発表した。ヤーセン級とは、加圧水型原子炉を搭載する全長約130m、水中排水量約1万3800トンの攻撃型原潜で、水中を31ノット(約57km/h)以上で走行できる。さらに垂直発射装置を装備し、射程300kmの巡航ミサイル「カリブル」ほか「オーニクス」「ジルコン」などの極超音速ミサイルを発射する機能を持つと言われている。つまり、これに核弾頭が搭載されている可能性があるのだ。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、「核の抑止力は、潜在的な敵国にロシアやその同盟国を侵略すれば報復が避けられないと理解させることを目的としている」と述べているが、核戦争突入の危険レベルが一気に高まったことだけは間違いなさそうだ。
(灯倫太郎)