近年の研究で、スポーツは子どもの身体能力だけでなく、認知能力を高める効果があり、成長に欠かせないということがわかってきた。しかし、さまざまな事情によって、スポーツに触れる機会を得られない子どもたちがいる。そんな中「全ての子どもたちに平等なスポーツ機会を」というフレーズを掲げ、日本中のあらゆる子どもたちにスポーツをする機会を作り出しているのが一般社団法人CORD PROJECT。多くの企業が賛同する同団体の取り組みについて、代表の池淵智彦氏にお話を伺った。
さまざまな理由で生まれるスポーツ格差
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2021年に設立された一般社団法人CORD PROJECTの代表、池淵智彦氏は、コロナ禍でインターハイなどが中止になるなど、子どもたちのスポーツをする機会が失われているニュース見て、自分に何かできないかと動きはじめたそうだ。
「最初は、子どもたちを応援するプラットフォームを作ろうと思っていました。そこでいろいろ調べたところ、子どもたちのスポーツ環境がいびつになっていることを知りました」(池淵氏、以下同)
池淵氏の言う「いびつ」とは、地域間格差や社会的格差、身体的格差などさまざまな理由によって生まれるスポーツ格差のことだ。
「たとえば、最近ではマラソン大会を実施しない小学校が増えています。その場合、長距離走が得意な子どもの才能に気付いてあげられない。また、過疎化によって街にサッカークラブがない、人数が足りないので部活動もできないといった地域では、サッカーに触れる機会さえない。あるいは、DVやネグレクトなどによって施設で生活をしている子どもたち。彼らには助成金が出る場合もありますが、施設によって状況が違いますし、野球やサッカーのクラブでは試合の送迎やお茶当番など保護者のサポートが必要なので、継続するのは難しい」
子どもたちのやる気や資質以前の段階で、スポーツに触れる機会が奪われている子どもたちの環境をどうにかしたい。そこで参加のハードルが低くなるよう、無料のスポーツスクールを開催し、ひとりでも多くの子どもにスポーツをする機会を与えたいと考え、CORD PROJECTが誕生した。
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子ども・アスリート・地域・企業、みんながWIN
現役のアスリートから指導を受ける子どもたち
CORD PROJECTのスポーツスクールでは、未就学児と小学生は参加費が無料で、種目は単一ではなく、ゴールデンエイジ(概ね幼児期から中学校まで)に取り入れるといいとされるマルチスポーツを採用。あらゆるスポーツの基礎となる体の動きを現役のアスリートが指導してくれる。
「安かろう悪かろうでは意味がありません。スポーツの世界の進歩はめざましく、5年前のトレーニング理論はすでに古くなってしまったという競技もあります。ですから、現役でありなおかつ子どもの指導を任せられるアスリートを選んでいます」
もちろん、無料だからといってアスリートたちにボランティアで参加してもらっているわけではない。池淵氏は、東京2020オリンピック以降、多くの実業団チームが経済的な理由から廃部となった事実を目の当たりにし、アスリートの価値の向上ができないかと考えたそうだ。
陸上競技・短距離の選手でもある樋口一馬コーチ(写真中央)など、現役のアスリートが指導にあたる
「実業団チームはコストセンターと言われることもあります。実際、実業団が事業収益を上げるというのはなかなか難しいと思いますから、仕方ないという一面があるのも分かります。でも、たとえば実業団の選手たちが週に1回学校や施設に行って子どもたちにスポーツを教えれば、会社のCSR活動の1つにもなりますし、地域交流や地域のスポーツ振興にも繋がり、アスリートの価値も上がりますよね」
受益者である子どもたちは無料で参加でき、なおかつ指導するアスリートは報酬を受け取ることができる。こうした構想を思いついた当初、周囲からは「言っていることの意味がわからない」「後で何かを売りつけようとしているんじゃないの?」などと、懐疑的な目を向けられたという。
「たとえばGoogleは基本的には無料で誰でも使えるインフラサービスになっています。でも、実はあの中にはバナーやリスティングなどさまざまな広告があって成り立っている。だったらスポーツでも、そういうことができるんじゃないか考えたんです」
実際に、CORD PROJECTには多くの企業がさまざまな形で関わり、その活動を支えている。