スポーツがつくる優しい社会
CORD PROJECTがグッドデザイン賞を受賞。授賞式に参加した際の池淵代表
CORD PROJECTの取り組みは実に意義のあることだが、子どもたちのために、大人ができることは他にもたくさんある。そんな中で、池淵氏がスポーツに目を向けたのはなぜなのだろうか?
「スポーツは目標のために粘り強く頑張るとか、友達と力を合わせて何かに取り組むといったことを通して非認知能力を高めるのに有効だと言われています。スポーツはやらなくても、命にはかかわりませんが、スポーツに健全に取り組むマインドは、共感力やコミュニケーション能力などの非認知能力や、夜空を見て星が綺麗だなと思える感性など、心の豊かさ、人として重要なものを育むんじゃないでしょうか。それに非認知能力が高まれば、国際化やIT化が進む社会でも、きちんと自分を主張して生きていけるようになるはず。ですから僕たちは、スポーツが上手になるというよりは、スポーツを健全に楽しむ人間性を子どもたちに学んでもらえるといいなと思ってやっています」
渋谷区部活動改革で、アスリートから、専門的な指導を受ける子どもたち
世の中には有料のスポーツスクールがたくさんある。池淵氏は、それを否定するわけではなく、有料も無料もどちらも世の中には必要だと考えているそうだ。
「高みを目指すチャンピオンスポーツのための有料スクールは必要です。しかし同時にインフラとして無料のスポーツスクールがないと社会構造的に辻褄が合わなくなるんじゃないかと思うんです」
CORD PROJECTは、設立からわずか3年余りだが、すでにさまざまな企業や自治体から、自分たちにも何かできないかという相談が持ちかけられているそうだ。しかし池淵氏は、まだまだ関係人口、協力してくれる仲間がほしいという。
「うちのような団体が増えれば増えるほど、世の中の構造は変わる可能性が出てきますし、優しい社会になるんじゃないかと期待しているんです。我々は『全ての子どもたちに平等なスポーツ機会を』というビジョンのもとにやっていますし、やれるまでやり続けるつもりです。でも、我々だけでは限界があるかもしれませんし、同じ考えの企業や団体が出てくることは競争社会においても重要だと思います。それに、我々の考えに賛同してこんな事業をやっているんだけど、何か協力できないかなとかいう企業などが増えてくると、我々の活動ももっと前に進めると思うので、まずは本当に仲間を増やしていきたいですね」
池淵氏は取材中、何度か「優しい社会」という言葉を口にしたが、今、盛んに言われている「多様性社会」とは、「優しい社会」でもあるのかもしれない。社会には自分とは違う立場、考え、状況の人たちがいることに思いを馳せ、格差をなくそうと行動を起こすこと。それらは、非認知能力のなせるわざ。その能力を養うスポーツには「優しい社会」を実現する力があるのかもしれない。
PROFILE 池淵智彦
1982年8月8日福岡県宗像市生まれ。九州共立大学八幡西高等学校卒、日本大学文理学部教育学科卒、早稲田大学大学院卒。プロデューサー、クリエイティブディレクター。25歳で社会人をスタートし2011年に株式会社MINT TOKYOを設立。地方創生や様々な企画やデザインで多くの地域や企業と取り組みを行う。学生時代に大学を卒業するまで陸上競技に取り組んでいたこともあり、コロナ禍で子供たちをスポーツを通じて元気にしたいと社内事業でCORD PROJECTを開始。さらに株式会社MINT TOKYOで培った地方創生や企画デザインや事業開発の経験を活かし2021年に一般社団法人CORD PROJECTを設立。スポーツ産業のインフラとなり新たな事業モデルを創るべくチャレンジを重ねている。
https://cord-project.jp/
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:CORD PROJECT