Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

タコはカモフラージュの達人です。

身の危険を感じると瞬時に体色を変えて、岩場や砂の中に溶け込みます。

一見すると、タコたちは何の苦労もなくカモフラージュをしているように見えますが、実際は違うようです。

米ワラワラ大学(WWU)の最新研究によると、タコのカモフラージュは多大な代謝コストを必要としており、1回ごとに重い代償がかかっていることが明らかになりました。

つまり、タコにとってカモフラージュは自らの寿命を削る禁術だったのです。

研究の詳細は2024年11月18日付で科学雑誌『PNAS』に掲載されています。

目次

タコはどうやって「カモフラージュ」するの?カモフラージュには「多大な代謝コスト」がかかっていたカモフラージュは寿命を削る「禁術」だった

タコはどうやって「カモフラージュ」するの?


Credit: canva

身を隠すために擬態したり、変装する生物は自然界にたくさんいます。

しかしその中でもタコが見せるカモフラージュは他の追随を許しません。

彼らは危険を察知すると、瞬きする暇もなく、瞬間的に体色や模様を変えることができるのです。

その秘密はタコの細かな筋肉と色素細胞にあります。

タコは腕一本につき約5000万の神経を持っていて、ありとあらゆる方向に筋肉を動かすことができます。

また皮膚表面には色素細胞があり、これが筋肉の動きに応じて収縮すると白っぽい淡色になり、弛緩すると茶色などの濃い色に変わるのです。

具体的には、色素細胞の中に「オモクローム」という生体色素が含まれており、これが黄色や赤色、黄土色などの色素を持っています。

そしてオモクロームが筋肉の収縮と弛緩を受けると、さまざまな体色や模様を表現できるのです。


瞬時に体色と模様を変えてサンゴ礁に溶け込むタコ / Credit: Monterey Bay Aquarium(YouTube, 2016)

その一方で、研究者たちは以前から「タコのカモフラージュにどれだけの代謝コストがかかっているのか」疑問に思っていました。

傍(はた)から見ると、タコたちは何の苦もなく自由自在に体色や模様を変えているように見えますが、実際のところはわかっていません。

そこで研究チームは今回、東太平洋で集めたタコ(学名:Octopus rubescens)を対象に調査を実施。

するとタコのカモフラージュは寿命を削る禁術だったことが判明したのです。

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カモフラージュには「多大な代謝コスト」がかかっていた

本調査では17匹のタコからそれぞれ皮膚サンプルを採取し、ブルーライト(青色光)を照射する実験を行いました。

タコの皮膚に含まれる色素細胞はブルーライトに反応して伸縮することが知られています。

チームはこの現象を利用し、皮膚サンプルが活動していないときの酸素消費量と、ブルーライトを浴びて伸縮する(つまりカモフラージュする)ときの酸素消費量を計測しました。

この酸素消費量がカモフラージュを起こすのに必要な代謝コストの指標となります。

こちらは光に反応して色素細胞が伸縮する皮膚サンプルの様子です。

※ 音声はありません。

次にチームは皮膚サンプルから得られた酸素消費量の測定値をもとに、タコがカモフラージュを行うときの体表面積全体の代謝コストを試算。

それと同時に、タコが活動をしない安静時にどれだけの酸素が消費されるかも調べ、それぞれを比較しています。

その結果、タコのカモフラージュには多大な代謝コストがかかっていることが判明しました。

まず、タコ(体重100グラムと仮定)の体が安静時に消費している酸素量は平均で毎時237マイクロモルでした。

一方で、同じ体重のタコがカモフラージュをするときに消費する酸素量は平均で219マイクロモルだったのです。

これは1時間ごとに自然と消費される酸素量と同じだけの量を瞬間的なカモフラージュ時に使っていることを意味します。


調査対象となったタコ(学名:Octopus rubescens)/ Credit: en.wikipedia

この理由について研究者らは「(カモフラージュには)多くの神経系と筋肉系が関与しているため、体色変化にかかるエネルギーコストも自然と高くなっている可能性が高い」と説明しました。

またこれはタコの寿命を考えると、莫大なエネルギーコストになると研究者は指摘します。

タコはそもそも寿命の短い生き物です。

通常だと1〜2年ほど、短いものだと半年〜1年程度、長いものでも4〜5年であり、タコにとっては1分1秒が捨てることのできない大切な時間となります。

その中でカモフラージュを使うことは、かなり寿命を削ってしまう行動だと考えられるのです。

そして今回の結果はタコが自然界でカモフラージュを連発せずに、なるべく控えている理由を説明するものでした。