「巨人が強くなったのではない。他がだらしないのだ」。4年ぶりリーグ優勝“新生巨人”の1年目を92歳・大御所OB、広岡達朗氏が激辛総括。今季リーグ優勝した巨人の勝因は何だったのか。『阿部巨人は本当に強いのか 日本球界への遺言』 (朝日新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けする。
ビジョンがある監督は岡田と新井
2023年のセ・リーグが阪神の独走で終わったとき、私は「やっぱりな」と思って、驚きもしなかった。シーズンが始まる前から、記者や旧知の野球ファンから「今年はどこが優勝しますかね」と聞かれると、即座に「阪神か広島だろう」と答えてきた。
後付けの結果論ではなく、2022年末の連載コラムに新井が広島、岡田が阪神の新監督に就任したのを受けて「面白いのは広島と阪神」と書いている。
広島の新監督に就任した新井貴浩は見どころがある。彼は就任会見で「ファンの方々が見ていてワクワクするようなチームにしたい」「コーチ陣に求めること? 勝つためにどうしていくのかということを考えてもらいたい」「カープの伝統として猛練習があるので量も質も追いかけていきたい」とコメントしていた。
(中略)
実際に秋季キャンプに入ると、現場をきちんと見ていた。あれが本当の監督である。藤井彰人ヘッドコーチの話も真摯に聞いていた。一見、ヘッドコーチのほうが監督のようだった。
(中略)
一方、岡田彰布監督が復帰した阪神も面白い。早稲田の後輩だから言うわけではないが、岡田監督は素直な男だ。
最初に監督を務めたころ(2004年)には投手陣のことをなかなか見ようとしないため、理由を聞いたら「投手のことは分からないので、投手コーチに任せています」と言った。私は「コーチに丸投げするな。監督はすべてを見る責任がある」と諭した。その後、岡田は投手陣にも目を配るようになった。2005年には「JFK」を原動力にリーグ優勝を達成した。(「廣岡達朗コラム『新井貴浩、岡田彰布が新監督に就任 2023年、面白いのは広島と阪神』」週刊ベースボールONLINE、2022年12月16日
https://column.sp.baseball.findfriends.jp/?pid=column_detail&id=002-20221226-20)
生きのいい新監督を迎えた赤ヘル軍団は、2023年の前半戦を首位・阪神に1ゲーム差の2位で終えた。3位・DeNA、4位・巨人と続き、5位は前年の覇者・ヤクルトだった。そして新井カープは7月27日、10連勝で首位に立った。
しかし、選手層の薄い広島は猛暑の8月に息が切れ、8月10連勝、9月11連勝の岡田阪神に18年ぶりのリーグ制覇を許した。新鋭・新井は現役監督最年長の岡田阪神に完敗したのだ。
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原監督の敗因と引責辞任
2023年9月14日、甲子園球場で行われた巨人戦で阪神が18年ぶりのセ・リーグ優勝を決めたとき、巨人の2年連続Bクラスもほぼ決まった。2019年から5年間続いた、第3次原監督の時代が終わった日でもあった。
原は2002年に巨人の監督に就任すると、いきなりリーグ優勝と日本一に輝いた。その後も通算17年の監督生活で計9度のリーグ優勝と3度の日本一を達成し、2020年には川上哲治監督の1066勝を抜き、通算1291勝は巨人の監督として最多記録である。
だが、きら星のような実績を誇る原の記録に陰りが出たのはこの3年間だった。2021年が3位に終わると、2022年からは2年続けて4位。球団初の2年連続Bクラスが決まった9月29日には「監督がどういう役割かはわかっている。新しい力に託すべきだと思った」と語り、山口寿一オーナーに辞意を伝えた。3年契約を1年残しての引責辞任だった。
1年前の進退伺いでは「新人を積極的に使った」と評価して続投を決めたオーナーも、今回は慰留しなかった。
原の誤算はどこにあったのか。敗因はいろいろあるが、一言でいえば「人間は歳とともに衰える」という自然の法則と向き合わなかったことだ。
これまでも著書やコラムで繰り返し書いたように、原に限らず巨人は長い間、生え抜きの選手を手塩にかけて育成する努力を怠り、他球団が育て上げた主力選手をFAで補強して戦力を強化してきた。
しかし人間の体力や能力は無限ではない。象徴的だったのが丸佳浩と坂本だ。
丸は2018年に広島で打率.306、39本塁打、97打点の成績を残してFAで巨人に移り、クリーンナップの一角を務めてきたが、打率は徐々に下がり、巨人では一度も3割をキープできなかった。
またホームランも27本、打点も89をピークに下り坂を続けている。2023年はシーズンを通じて例年よりベンチスタートが多く、規定打席数にも届かなかったが、2024年は1番に定着し、打撃よりも外野の守備で貢献する場面が増えた。