やがて世界が直面するであろう「食糧危機」を見越しての“環境に配慮した次世代フード”として「食用コオロギ」の生産や商品開発を手掛ける「グリラス」(徳島市)が徳島地裁に自己破産を申請したことが22日、わかった。
コオロギ食については、2022年11月、徳島県立小松島西高校で乾燥コオロギの粉末入りの「かぼちゃコロッケ」を校内調理して給食として提供、2023年2月にはコオロギエキスを使った「大学いも」を提供したが、これらが報じられると全国で議論が紛糾した。
原材料は徳島大学発のベンチャー企業が提供していたもので、このベンチャー企業こそ、今回自己破産を申請した「グラリス」。同社の広報担当者は昨年3月、集英社オンラインの取材にこう答えていた。
「今回の試食は弊社としてはコオロギ食をいろいろな方に知ってほしいという思いからでした。学校側はSDGsについてのいい教材だと考えていたのだと思います。日頃より『コオロギを食べて菌とか大丈夫なのか?』『虫なんて食わすな』『発がん性は?』といったお問い合わせや誹謗中傷もありますが、未知のコオロギ食に対してそう思われるのは不自然なことではないと捉えています」
世界人口が80億人を突破する現在、いずれ家畜を飼育する飼料も不足し、肉などからタンパク質を確保することが難しくなるため、近い将来は昆虫食にも頼らざるをえなくなる、ともいわれていたが、広報担当者はこう続けた。
「牛乳の廃棄問題をはじめ、食品ロスの問題や代替肉など、食糧危機に関してできることはすべて取り組むべきだと考えています。その一環として弊社はコオロギ食に取り組んでいますが、コオロギ食がすべてだと考えているわけではありません」
数ある昆虫の中でなぜ「コオロギ」を選択したのかについては、こう答えていた。
「食肉に比べて食用コオロギはタンパク質の含有量が多く、その上、畜産と違って餌の量や水も少なくてすみます。しかもバッタなどとは違い、コオロギは雑食なんです。人間と似たような物を何でも食べるのでコストを抑えて飼育ができます。そうはいっても弊社では飼育方法や餌に関してもこだわっていますから、現状、コストは高いです。当社では小麦粉ふすまをベースに食品残渣を餌に用いています」
もう少ししっかり考えなきゃいけないのでは?
しかし、元農林水産大臣の山田正彦氏(81)はこう警鐘を鳴らしていた。
「私はコオロギについては食べるべきではないと思っています。漢方医学大辞典ではコオロギは微毒であり、とくに妊婦には禁忌だとされています。昔からイナゴや蜂の子は食べても、コオロギは食べないですよね。少なくとも私は食べません」
山田氏といえば1993年から衆議院議員を5期務め、2010年6月に菅直人内閣で農林水産大臣に就任。現在は弁護士業の傍らTPPや食の安全、食料安全保障の問題などに取り組んでいる。
その山田氏が、そもそもコオロギの食品としての安全性に疑問があると、こう指摘していた。
「2018年9月に内閣府の食品安全委員会のホームページで『欧州安全機関、新食品としてのヨーロッパイエコオロギについてリスクプロファイルを公表』という情報が出されています。そこには動物衛生と食品安全において、著しいデータギャップが存在していてさまざまな懸念点が挙げられていました。
『総計して、好気性細菌数が高い』『昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある』『重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある』などです。この件についてはさまざまな議論がされていますが、わざわざリスクの挙げられているコオロギを食べる必要はないと思っています」
コオロギの品種や加工方法にかかわらず、これまで食べられてきた歴史がない以上、何が起こっても不思議ではなく、安易に口にするのは「危ない」ことだと指摘する。
「徳島県の高校でコオロギを給食で試食したというのは新しくおもしろいことのように見えますが、食品安全委員会が出した情報を踏まえると、もう少ししっかり考えなきゃいけないのでは?と思ってしまいますね」
今年2月には、「食用コオロギ」の養殖や販売で世論を揺るがせた「クリケットファーム」(長野県茅野市)が親会社ごと倒産し、話題となった。母体のIT企業「INDETAIL」(札幌市中央区)を含めたグループ3社の負債総額は2億4290万円にのぼり、昨年12月には家賃の支払いも滞っていたという。
「グリラス」も2022年にコオロギ粉末入りの食品を給食で提供したことで、SNSなどを中心にたくさんの批判を受け、資金繰りに行き詰まっての自己破産となった。
山田氏の指摘どおり、日本で昆虫食が「ブーム」になることはそう簡単ではなかったようだ。
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取材・文 集英社オンラインニュース班