アトランタ・ホークスの若き守備職人が躍動している。2022年のNBAドラフトでニューオリンズ・ペリカンズから8位指名を受けてデビューした、ダイソン・ダニエルズだ。
今季が3年目のオーストラリア人ガードはこの夏、デジャンテ・マレーとのトレードでホークスに加入すると、開幕戦からスターターに定着して大きなインパクトを与えている。
現地11月21日時点で平均3.14スティールはリーグトップ。さらに相手のパスに触れて軌道を逸らすディフレクションでは2位のディアロン・フォックス(サクラメント・キングス/57回)に大差の96回で、こちらも堂々の首位に立っている。
加えて、ブロック数でもチーム内で最多のジェイレン・ジョンソン(1.07)に肉薄する1.00を記録。ガードの選手の1試合あたりのスティール&ブロック数では、「4.1」でダニエルズがリーグ首位。この数字は、歴代においてもかのマイケル・ジョーダンが1987-87シーズンに記録した「4.8」(スティール3.16+ブロック1.60)に次ぐペースというのだから、彼のポテンシャルがうかがえる。
ダニエルズは、自身を「守備的プレーメーカー」と評している。
「スティールでも、ディフレクションでも、成功するかどうかはギャンブルのようなものだけれど、それはシュートとも共通しているんだ。決まれば2点を手にできる、ということもね」
人気NBAポッドキャストの元ホスト、リー・エリス氏とのインタビューでダニエルズはそう語っている。
自身の言葉通り、“守備的クラッチプレー”でホークスに勝利をもたらした試合もある。11月18日のキングス戦、1点を追うキングスは最後の攻撃をエースのフォックスに託したが、逆転がかかったジャンパーをダニエルズがブロック。この試合、彼は自己最多の4ブロックを記録している。
少年時代はオーストラリア式サッカーでも才能を発揮していたというダニエルズは、常にディフェンスに面白さを見出していたという。
スティールのコツについて彼は、「いけそうだ、というような直感は、生まれつき備わっていた素質のように思う。そのおかげでこうしてNBAでプレーできるようになった。コーチも信頼して任せてくれている」と答えている。 ホークスのクイン・スナイダーHC(ヘッドコーチ)は、「彼のディフェンスのスタイルは非常にユニークだ。相手をマークしながら、自分の持ち場を離れることなく持ち味を発揮できる」とダニエルズの特性を語り、エースのトレイ・ヤングも「彼がいるおかげでみんなが楽にプレーできる。僕自身、無理なシュートを打ってしまう時もあるけれど、彼が流れを引き寄せてくれるとわかっているから安心して打てるし、彼からまた次のチャンスが生まれるんだ」と信頼を口にしている。
ペリカンズからこの夏ともにホークス入りしたラリー・ナンス Jr.からは、オーストラリアが誇る世界遺産「グレート・バリア・リーフ(Great Barrier Reef)」をもじって、「グレート・バリア・シーフ(Great Barrier Thief)」 というあだ名を授けられたらしい。“偉大なるバリケード盗人”というこのニックネームを、本人も大いに気に入っているそうだ。
今後の課題はシュート力の向上だ。今季は3ポイントシュートの成功率が3割を切って28.8%。キャリア通算でも30.7%と、シューティングガードとしては物足りない。
それでも、11月12日のボストン・セルティックス戦ではキャリアハイの28得点をマークし、ヤング不在の一戦でディフェンディングチャンピオンを1点差で下す金星に貢献。続く15日のワシントン・ウィザーズ戦でも25得点をあげるなど、攻撃面でも存在感を高めている。
この序盤戦の活躍から、さっそく今季の最優秀守備選手賞に推す声も上がっている。過去の受賞者を見ると、直近30年でガードの受賞者は1996年のゲイリー・ペイトン(当時シアトル・スーパーソニックス)と2022年のマーカス・スマート(当時セルティックス/現グリズリーズ)のみと希少だが、その仲間入りを果たす可能性を秘めている。
「ダニエルズが入ってホークスの試合は面白くなった」という声も多い。ドラフト1位のザカリー・リザシェイも擁する今季のホークスが、混戦のイーストで台風の目になるかもしれない。
文●小川由紀子