「これじゃ、このままJに行っても通用しないなと自分で気づくことができました」
11月17日に行なわれた関東大学リーグ1部の最終戦後、大学サッカー界屈指のCBと呼ばれ、J1のビッグクラブである浦和レッズに加入が内定している流通経済大の根本健太はこう口にした。
184センチのサイズを持ち、空中戦と対人の強さはずば抜けている彼は、昨年はパリ五輪を目ざすU-22日本代表に選出。合計9クラブが激しい獲得レースを繰り広げた末、今年8月に浦和入りを発表した。まさに即戦力の期待がかかる逸材だが、なぜ根本は冒頭のような発言をしたのか。
最終戦は、リーグ優勝のかかった明治大との対戦。大差で負けない限り優勝が決まる明治大に対し、流通経済大は勝たなければ冬の全国大会であるインカレに出場できなくなり、4年生はそこで大学サッカーが終わるという重要な一戦だった。
だが、スタメンに根本の名前はなかった。結果は1-4の完敗。根本は最後までベンチで試合を見つめることしかできなかった。
怪我やコンディション不良ではない。シンプルにレギュラー争いに敗れての結果だった。大学最後の試合がこのような形で終わったことに、いろいろな思いがあるだろう。しかし、それでも根本は試合後のミックスゾーンに姿を現わし、気丈に、真摯に思いを口にしてくれた。
「プロが決まって、やらなきゃいけない存在であるにもかかわらず、チームに貢献できなかった。1人の人間としても物足りなさを思い知らされたなと思います」
最初は消え入りそうな小さな声だったが、だんだんその言葉に力がこもってきた。自分の思いと発言を、自らに言い聞かせるようにこう続けた。
「ありがたいことに、僕は2年生から試合に使ってもらうようになって、昨年は代表活動など、本当に貴重な経験をさせてもらった。そのなかでチームは宮田和純(オリヴェイレンセ)さんや八木滉史さん、前田陸王(松本)さんの3人の4年生の存在が凄くて、僕も引っ張られていた。
本来なら今年は僕が彼らのようにもっとチームを鼓舞できていたら、インカレにも出場できていたかもしれないし、もっと結果を出せたかもしれない。情けなさと悔しさ、反省の念があります」
今年の途中までの根本は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。千葉の東京学館高からやって来た彼は、高校時代は全くの無名。だが、身体能力の高さとポテンシャルを買われての入学であり、「将来大物になるよ」とスタッフ陣からは大きな期待を寄せられていた。
「入学当初は260人の部員の中に埋もれていたので、消極的なプレーばかりで恐る恐るやっていた時期もあった」と振り返るが、あの時の根本はただひたすら下から上に這い上がるという下克上精神が宿っていた。
歯を食いしばりながら努力を重ねた結果、2年になってトップチームに抜擢され、試合を経験するごとに自信を積み上げていった。それが飛躍へと繋がっていった。
だが、今年の秋に入ると徐々にトーンダウンし、不動のレギュラーだったのは第17節の関東学院大戦まで。第18節の中央大戦では、ずっとコンビだった1年生CB塩川桜道と3バックを組んだのは、4年生の豊田柊弥と、メキメキと頭角を現してきた2年生の西川楓人だった。
ここから4試合はこのメンバーの3バックが続き、根本はベンチスタートのまま。出番も2試合で残りわずかな時間に出場したのみで、他の2試合は出場なし。
迎えた最終戦。塩川がU-18日本代表のスペイン遠征に選出されたため、根本にチャンスがあるかと思われたが、ピッチに立っていたのは西川、3年生の田口空我、2年生の萩原聖也の3人だった。そして前述した通り、最後まで出番は訪れず、根本の大学サッカーは幕を閉じた。
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「大学に入って、ずっと上を見ながら這い上がって行こうとやってきたなかで、急に下から突き上げられる形になって、戸惑いは正直ありました。こういう時こそ、自分にベクトルを向けないといけないのに、なかなか向けられずに自分で勝手にストレスを溜め込んでしまったりしていた。それが良い方向に向かわなかった。そういう時こそ自分をコントロールできるような選手でないと、一流にはなれないなと思いました」
根本は今、苦しい時間を過ごしているが、この話を聞いて、この先のプロサッカー人生、ひいては彼の人生において、とても重要でポジティブな時間を過ごしていると感じた。自分が下だと感じている時は、強烈な向上心があれば人間はひたすら努力ができる。努力すればするほど成果は出て、それが自信に繋がってくるが、いざレギュラーやプロ入りを勝ち取って、チーム内で追われる立場になると、根本のように戸惑い、苦しむ選手はいる。
だが、そこで時には痛い思いを味わいながら、自分で「このままではダメだ」と気づいて、自分と向き合うことから逃げずにいれば、この先にさらなる大きな成長を掴み取る重要なパワーを生み出す。
「人生はうまくいくことばかりではないなと感じましたし、そういう自分がうまくいかない時こそ、どう自分を鼓舞して良い方向に持っていって、プラス、チームにどう影響を与えて良い方向に持っていくのか。それがどれだけ大事かが分かりましたし、自分には決定的に足りなかった。
この気づきは本当に重要で、今からしっかりと自分と向き合って成長していきたい。そういう意味では、この大学4年間は本当に濃い4年間でした。来年活躍するために今できることを精一杯やりたい」
この苦境はさらに高く飛ぶためのエネルギーを養う時間。そう受け止めることができた根本の表情は決して暗くはなかった。人生において重要な時間だったと振り返れることを心から願っている。それは間違いなく、流通経済大のスタッフの人たちの願いであり、根本へのエールでもあるだろう。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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