東京・新橋のガールズバーで従業員の谷沢優奈さん(当時18歳)が刺殺された事件からまもなく1ヶ月。東京地検は11月15日、千明博行容疑者(49)=群馬県渋川市=を殺人罪と銃刀法違反で起訴した。都内にある優奈さんの実家には、深い悲しみを癒す術もなく憔悴しきった父の姿があった。記者が実家のインターフォンを押したのは起訴から5日後のこと。「私自身もまだ、事件のことを全然知らないんですよ…」と重い口を開いてくれた。
「顔以外は布で隠されていました」
事件後に警視庁からは何も伝えられておらず、情報収集はインターネットが頼りだという父親は、18年の生涯を真っ直ぐに生きた愛娘を思いやり、時おり言葉を詰まらせ、千明被告に対してこう言葉を絞り出した。
「……本当に同じ思いをさせてやりたい、そういう思いです。ただ何があったのか真実を知るまでは(事件については)何も言いたくないんです」
千明被告は警視庁の調べに対し、凶行に及んだ動機を「外で会わないと言われたから」と供述している。あまりに身勝手な犯行で娘を突然奪われた父の生活も一変した。
「私には息子もいますけど、娘とともに、2人の子の命が自分より大切だと思っていましたから。だから、なんで自分が生きているのか、何もやる気になれないというか……。
あいつ(被告)は優奈1人を殺したつもりかもしれないけど、そうじゃない。家族全員が傷ついて、あいつを恨むしかないんだ……。それほど殺され方がひどすぎた」
父はここでしばし絶句し、遺体と直面した様子を振り返った。事件発生当日の10月27日早朝、衝撃の電話で起こされた。
「電話は病院からで、『娘さんが死亡し、病院で安置しています』って言われて……。最初は冗談としか思えなかったけど、身近な人に連絡してすぐに病院に向かいました。遺体は全部布で隠されて、顔だけ出された状態だった。とても全身を見せられる状況じゃなかったんでしょう。本当にひどかった。
首を刺されたと聞いていたこともあって、どうしても首の方に目がいってしまった。そして、顔もひどくやられていました。今でもその死に顔しか思い浮かばない……」
対面時は、まだ傷の処置もされていなかった。
「現場のガールズバーで、すでに手の施しようがない状態だったようです。安置していた病院では、医師が『ひどすぎて全身はとても見せられない』と判断したのでしょう、顔以外は布で隠されていました。
でも、顔は、切り傷というか……鼻の穴まで切られてひとつになってしまっている状態で……。病院に向かう途中は『何とかならなかったのかよ』と何度も思いましたが、遺体の状態がもう衝撃的すぎて。どうしても何度もこの時の顔を思い出してしまいます」
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ガールズバーに勤めるようになった理由とは…
優奈さんは演劇やアニメが好きで、働くことにも積極的だった。ガールズバーの前には、駅前の牛丼屋でアルバイトをしていたという。
「そうですね。牛丼屋でバイトしていたこともあります。色々なことを幅広くやっていました。ガールズバーに勤めるようになったことを私が知ったのは、働き出してしばらく経ってからでした。
優奈は4年制の学校に行っていて、4年目だったので社会人の感覚で接していたんです。世間一般の常識はある子でしたし、特にとやかくうるさいことは言ってなかったんです。
優奈は演劇が好きだったし、声優とかアニメも大好きでしたね。何かを目指してそのために働いてお金を貯めようとしていたというより、何を目指したいのか模索している、私にはそう見えました」
夢見る少女である愛娘を身勝手な理由で惨殺した千明被告に今、父は何を思うのか。
「お金のトラブルみたいなことも言っているようですが、そんなことで人の命を奪うのかと。でも、今のところは真相を知るまでは……。そのために裁判も出席しようと思っていますが、それが終わってからでないと。真相を知るまではと、自分を抑えているところもあります。ちゃんと知ってからでないと、今は何も言えないです」
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班