カフェインを控えすぎると記憶障害になるリスクが「3倍」近く増加すると判明 / 1日2杯のコーヒーは認知機能の維持に効果をもたらすと言われています。/ Credit : Canva

朝のエスプレッソ、あるいは会議の合間のコーヒーなど、1日を通して適度な量のカフェインを摂取することが、認知症進行のリスクの低減につながるかもしれません。

アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)は、年齢を重ねることでリスクが高まる「記憶の霧」とも呼ばれる病気の一つです。

この病気が進行する原因の一つとして、脳の細胞に異常なタンパク質が蓄積されることが考えられています。

近年、コーヒー、紅茶、チョコレート等に含まれる「カフェイン」が脳にとって良い影響を与える可能性があると注目されています。

多くの研究では、カフェインを日常的に摂取している人が認知機能の衰えが緩やかで、アルツハイマー病や認知症のリスクも低い可能性が示されています。

フランスのリール神経認知科学研究所(Lille Neuroscience & Cognition、LNC)による研究の詳細は、2024年8月4日付の『Alzheimer’s & Dementia』に掲載されています。

目次

カフェイン摂取の比較調査カフェイン摂取の効果は1日コーヒ―2杯以上?カフェインが認知証の原因物質「アミロイドβ」の蓄積を防止?

カフェイン摂取の比較調査

カフェインに関する8年にわたる長期調査では、50歳から71歳までの人を追跡し、コーヒーの摂取量と死亡率の関係を調べたところ、カフェインの摂取が健康維持に役立つ可能性が確認されています。

また、カフェインが一時的に記憶や警戒心を高め、認知機能をサポートすることも明らかになってきました。

さらに、AD(アルツハイマー病)の動物モデルの実験では、カフェインが脳の異常タンパク質の蓄積を遅らせる作用があるかもしれないとされています。

但し、実際のADや認知障害の患者たちでカフェインがどれほどの効果があるかはまだ完全には解明されていません。

そこで今回のLNCによる研究では、AD(アルツハイマー病)やMCI(軽度認知障害)の263名の患者を対象に、コーヒーを含む日常的なカフェイン摂取と脳内の異常タンパク質の関係を確認し、カフェインが脳にとって本当に防衛策となるのかを探っています。

この研究は、2010年から開始され、ADやMCIの患者の集団に対してカフェインの摂取と脳の変化の関連性を調べるための長期追跡調査です。

フランス国内の23の施設が協力し、現在も3年間の追跡調査を行っています。

この調査の参加者やその家族は、事前に調査内容の説明を受け、同意をした上で参加しました。

この調査の参加者は、45歳以上で介護者がいるAD患者と、70歳以上でMCIの診断を受けた患者です。

参加者は、脳に影響を与える他の疾患を持たない患者が選ばれており、認知力の低下がADに由来するものかを確かめるため、様々な評価が行われました。

参加者全員は、MRI(核磁気共鳴画像法)での脳の検査や、統一された認知テストも受けています。

これにより、脳の活動の様子や認知力の状態が一貫した方法で確認されています。

MCIの参加者はさらに、「記憶の障害が見られるタイプ(aMCI)の患者」と「記憶の障害が見られないタイプ(naMCI)の患者」に分類されました。

この調査では、カフェインの習慣的な摂取量も重要な要素として記録されました。

263人の参加者は、コーヒー、紅茶、チョコレートなどに含まれるカフェインの摂取量を1日の平均で自己申告し、中央値である216mg/日を基準に「低カフェイン群」と「高カフェイン群」に分けられました。

この分け方によって、カフェインが脳の健康に与える影響をさらに詳しく分析できるようになります。

因みにコーヒー1杯(約150〜180ml)に含まれるカフェインの量は、およそ 80〜120mg です。

但し、これはコーヒーの種類や抽出方法によって異なり、エスプレッソには1杯あたり約60〜80mgのカフェインが含まれるのに対し、ドリップコーヒーは1杯あたり約100〜150mgのカフェインを含んでいます。

また、紅茶一杯分は約30 mg、チョコレートはカカオの含有量によって約14~42 mgのカフェインが含まれています。

したがって、この調査の基準量は、ドリップコーヒー約2杯分に相当することになります。

この研究では、参加者の脳と血液から採取したサンプルを用いて、脳内の異常タンパク質である「アミロイドβ」のレベルを測定しました。

これらはADの進行に関わるとされる物質であり、血液や脳脊髄液(CSF)中での量を調べることで、カフェインの摂取がこれらの物質の蓄積に与える影響を探っています。

採取されたサンプルは、特別な保管チューブに分けられ、冷凍保存されました。

これにより、サンプルが劣化せず、信頼性の高いデータが得られます。

この調査に基づき、日常的なカフェイン摂取と異常タンパク質の蓄積との関連性が明らかになるかどうかを評価します。

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カフェイン摂取の効果は1日コーヒ―2杯以上?

この研究では、ADやMCIに対するカフェイン摂取量の影響がどう出るかを統計的に調べました。

研究者たちは、多変量のデータの特徴を要約する方法である、多変量解析を使って結果を分析し、特にカフェイン摂取量が認知状態とどう関わるかを探ろうとしています。

263人の参加者は、「MCIで認知症のリスクが高くないnaMCIの患者」、「認知症に進行するリスクがあるaMCIの患者」、そして「既にADと診断された患者」の3つのグループに分けられました。

それぞれのデータを比較し、MCIやADとの関連が見られる要因を調査しました。

そして今回の研究では、カフェインの摂取量を「低摂取(216mg/日以下)」と「高摂取(216mg/日超)」に分けて検証しています。

この基準値の216mgは、1日のドリップコーヒー約2杯分のカフェインに相当します。

摂取量が少ない人は、記憶障害のリスクが高くなる傾向が見られました。

具体的には、naMCIの患者のうちカフェインの低摂取者は、認知症の初期段階であるaMCIへ進行するリスクが有意に高かったのです。

この結果から、毎日のカフェイン量が多いと、ADやMCIの進行を抑える可能性が示唆されました。

但し、カフェインがどれほどの効果を持つかは簡単に言い切れません。

参加者全体のカフェイン摂取量とBMI(ボディマス指数)などの体格データには有意な差がなく、また認知機能の低下が進んでいるADの段階に入るまでの進行スピードには、カフェイン摂取量による影響はほぼないことが確認されました。

また、この研究では特に「アポリポタンパク質E(APOE ε4)」という遺伝子の型や、年齢、性別、教育レベル、喫煙の有無といった因子が、カフェインと認知機能の関係にどう影響するかも調べています。

すると驚くべきことに、カフェインを控える人は、aMCIに進行するリスクが2.72倍も高くなるという関連が見つかりました。

このような分析によって、「カフェインが記憶や思考の健康を守る一助となるのではないか」という仮説が生まれています。


カフェインの摂取が認知症進行のリスクを低減させることは、多くの研究で報告されています。/ Credit : Canva