バルセロナの若きストライカー、ラミネ・ヤマル。出場するすべての試合で人々を驚かせ、その優れたスキルと若々しいプレーで、瞬く間に世界レベルのスター選手となった。
ここで我々はふと疑問を抱く。いったヤマルにインスピレーションを与えた選手は誰なのか?
彼は長いこと、憧れの選手が誰であるかを口にしなかった。だが多くの者は、それはリオネル・メッシであると思っていた。メッシと同じラ・マシア(バルセロナの下部組織の総称)育ち、同じレフティーのアタッカー、今シーズンからはかつてメッシがつけていた19番を背負って活躍している。誰もがそこにメッシの姿を重ねるだろう。
しかし、最近になってヤマルは、自身にインスピレーションを与えてきた選手は実はネイマールであることを公表した。
ヤマルがまだラ・マシアの少年だった頃、ネイマールとメッシはバルサで4年間ともにプレーし、多くの勝利をチームに与えた。チャンピオンズリーグ、クラブワールドカップ、コパ・デル・レイ2回、スペイン・スーパーカップ……。ピッチ内外の2人のあり方は、若い選手たちに大きな影響を与えた。
ヤマルがネイマールへの憧れを初めて明かしたのはEURO2024開催中に行なわれたバルセロナの日刊紙『ムンド・デポルティーボ』のインタビューだった。
「子供の頃の僕の唯一最大のアイドルはネイマールだった。僕を惹きつけ、いつか彼のようにプレーしたい。そう思っていた」
もちろん、メッシもヤマルにとってはお手本だった。ただ、ネイマールは特別なのだと言う。
「メッシは誰よりも最高だ。でも、僕はネイマールのスペクタクルな、オンリーワンなプレーと彼のすべてが好きだった。彼のおかげで試合を観るのが楽しくなった」
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ヤマル少年はネイマールのプレーを繰り返し研究したという。
「パソコンを持っている友達の家に行っては、ずっとネイマールのビデオを観ていた。日が暮れるまでね。そして家に帰ってからは自分の部屋でその日観たネイマールのプレーを思い出して、練習していたんだ」
今でもヤマルはネイマールのドリブルを思い出すことがあるという。かつて何度も観て、何度も真似していたから、プレーの最中に「ああ、ネイマールはこの動きをしたんだ」と感じることがあるそうだ。
これまでネイマールへの憧れを口にしなかったのは、かつて怒られたことがあったからだという。
「メッシよりネイマールと言ったら、みんなにすごく怒られたよ。とくに僕の父親は、僕にメッシのような選手になって欲しいと思っていたからね」
しかしそんな父も、立派に育った息子を見て、彼の発言を許しているだろう。
メッシとよく比較されるヤマルだが、チームメイトのラフィーニャは、彼をネイマールと比較している。
「ラミネは時々、驚くほどネイ(マール)と似たプレーをする。だから、代表でネイと一緒になると、よくこう言うんだ。おい、バルセロナに認知すべき “息子”がいるんじゃないか? ってね」
一度カミングアウトしてからは、ヤマルはネイマールへの憧れを隠さない。EURO期間中にはニコ・ウィリアムスと一緒に、ネイマールが広めたダンスを踊っている。
またヤマルは、ネイマールの名前入りのサントスのユニホームを着て『TikTok』にも登場した。喜んだサントスの公式サイトが、これをリポスト。それだけでなくヤマルにこんなメッセージを送った。
「そのユニホームは歴史的なものなんだ、ヤマル(2011年にサントスがコパ・リベルタドーレスに優勝した時のユニホーム)。新しいユニホームも用意しよう。もしよかったら次の休暇に、ヴィラ・ベルミーロ(サントスのスタジアム)に来て、サッカーの殿堂を堪能してほしい。君はすでにメニーノ・ダ・ヴィラ(ヴィラの少年)だ!」
メニーノ・ダ・ヴィラとは、サントスの下部組織の選手、もしくは出身の選手のことを指す。バルサのラ・マシアと同じような意味だ。
なによりヤマルを喜ばせたのは、このサントスの投稿を、今度はネイマール自身がリポストし、キャプションに「グレイト」と書き綴ったからである。
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。
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