まさに寝耳に水だった。
11月23日、野球の国際大会「ラグザス presents 第3回 WBSC プレミア12」はスーパーラウンド第3戦が東京ドームで行なわれ、侍ジャパンは台湾との打ち合いを制し9対6で勝利を収めたものの、実は試合直前に両チームの間にひと悶着が起きていた。
日本は初回、1番・二塁でスタメン起用された村林一輝の先頭打者アーチで先制点を奪う。そのあと2つの四死球で無死一、二塁に広げると4番の森下翔太が三塁線を鋭く破る二塁打で2点を追加するなど、立ち上がりに一挙4点を奪う猛攻を見せた。
負けじと台湾も3回に1点を返すと、5回には日本の先発・早川隆久が突如コントロールを乱して計4四球と大乱調。台湾はこの好機を見逃さず1点差に迫り、なおも無死満塁の絶好機を迎える。球場に大勢詰めかけた台湾ファンの熱烈応援も加わり、押せ押せムードだったが、この大ピンチを日本は2番手で救援した清水達也がシャットアウトする。5番パン・ジェカイが放った足下を襲う強烈ライナーを抜群の反射神経で捕球して併殺打に打ち取り2アウト。次打者をフォークで空振り三振に斬ってとり、この試合最大のピンチをしのいだ。
するとその裏、今度は日本が2死満塁の好機をつくると相手の暴投でまず1点を加点。ランナーが二、三塁の状況になると、7番・三塁で先発出場した清宮幸太郎が右中間スタンドに大きな放物線を描く。あと一歩でホームランという打球は右翼フェンスを直撃する貴重な2点三塁打で日本が7対3とリードを広げた。
粘る台湾は6回表に連続二塁打で点差を縮めると、すぐさま日本も直後の攻撃で1死一、三塁から辰己涼介が左翼線に運ぶタイムリー二塁打で台湾を突き放すなど、互いに打ったら打ち返す白熱の打撃戦を展開。最後は侍ジャパンが継投で逃げ切り、開幕から怒涛の8連勝を果たし、国際大会の連勝記録を「27」まで伸ばした日本。チームは史上初の連覇を懸けて24日の決勝で再び台湾と激突する。 結果的に日本が勝利を収めたものの、実は試合前に見過ごない”事件”が起きていた。台湾が予告先発投手を急きょ変更したいと申し立てたのだ。
当初は22日の米国戦後にエース左腕のリン・ユーミンが発表されていたが、この日デーゲームで行なわれたベネズエラ対アメリカ戦でベネズエラが5対6で敗北したため、日本と台湾の決勝進出が決定した。この結果を受け、台湾側は日本に当日の先発投手変更を提案してきた。
世界野球ソフトボール連盟(WBSC)の大会規約では、先発投手の変更に際しては故障などの正当な理由を除き、同連盟が判断しない場合は罰金などのペナルティを受けると記されている。台湾側の突然の申し立てに日本側は困惑。主催者であるWBSCに「スポーツマンシップに反する行為だ」と猛抗議したが、同連盟は投手変更をなんと承認。台湾側は罰金を支払うとともに、左腕対策を練っていた日本チームの要請(同じ左腕投手を先発登板させる)をのみ、前日の米国戦で先発した左腕のチェン・ボーチンを”中0日”で登板させる苦肉の策を講じた。
日台メディアも右往左往する極めて異例の事態となった前哨戦。試合後の記者会見で井端弘和監督は、不可解な予告先発投手の変更を質問されたときは「決めるのは大会側」と努めて冷静にコメントしたが、複雑な表情は隠せなかった。
一方、台湾の曽豪駒監督は予告先発の急きょ変更を釈明。「日本側に大変申し訳ございません」と異例の謝罪を表明した。続けて、「日本側に状況を説明して(先発投手を)変えたんですが、相手を困らせることではありました」と反省の弁を繰り返した。その意図については、「いい状態で明日の決勝に向かわせるためにこういう選択をしました。いい投手を明日に向けて温存したかった」と話すにとどめた。
プレミア12はオープニングラウンドから野球熱の高い日本と台湾がファイナルの舞台に進出した。決勝でエースを先発させるため露骨な温存策を断行した台湾の策は、はたして吉と出るのか。今大会3度目の顔合わせとなるカードは、どんな結末が待っているのだろうか。
取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)
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