「大学全入時代」と言われる状況が続くなか、日本各地の大学は生き残りに必死だ。深刻な少子化に歯止めがかからず、入学志願者も減少しており、多くの大学が危機的な状況に直面している。また、現場の教員によれば、学生の質が大きく低下している大学も少なくないという。現在、複数の大学で講義を担当する教員A氏と、実際に大学に通う現役学生に、現在のキャンパスの実情について話を聞いてみた。
2024年度は、私立大学の約6割が定員割れに
11月5日に厚生労働省が公表した「人口動態統計(概数)」によると、今年上半期(1月~6月)に生まれた子どもの数は32万9998人(前年同期比6.3%減)。このままのペースで進むと、通年では70万人を下回る見込みであり、少子化が深刻なレベルで進行していることが浮き彫りとなっている。
子どもの減少が加速する中で、その影響を大きく受けるのが大学だ。志願者が減れば財政難に陥る恐れがある一方で、入学者を確保するために入試難易度を下げれば、学生の質の低下は避けられない。
このような状況の中、一部の大学では、すでに“崩壊”が始まっているようだ。
文部科学省が所管する日本私立学校振興・共済事業団は、9月13日に2024年度の「私立大学・短期大学等 入学志願動向」を公表した。このデータによると、今年度に定員割れした4年制私立大学は前年から約6ポイント増加し、59.2%。現在では、定員に達した私立大学のほうが“少数派”となっている状況だ。
また、文部科学省が公開している中央教育審議会の議事録によると、8月27日の会議で文部科学省 大臣官房審議官(高等教育局担当)の伊藤学司氏が「中間的な規模の大学や短期大学が毎年90校程度減少していく」と、現在の危機的状況について言及した。この見解は、実際の現場でも共通の認識となっているようだ。
匿名を条件に取材に応じてくれたのは、大学教員として10年以上のキャリアを持つA氏。偏差値40前後の複数の大学で講義を担当しているが、「少子化の影響で学生の確保が難しくなり、留学生によって経営を保たせているのが実情」だと語る。
「日本人学生を確保できない以上、学費をきちんと納入できる留学生を受け入れたほうが経営的にはいい、という判断になります。“国際化”という美名のもと、日本語が全然話せなくても受け入れざるを得ない状況なんです。
でも、これは海外の大学も同じです。イギリスの友人たちに聞くと、『留学生ばかりで、白人のほうが少数派』とか言っていました。結局、多くの先進国で少子化が進んでいるので」(A氏)
そして悩みの種は、財源だけではない。A氏は、この10年ほどで学生の“質”も大きく低下したと実感しているようだ。
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件名も本文も空の添付メール。レポートの締切に抗議する学生も
「偏差値が高い大学でも低い大学でも、教員に対する尊敬のような気持ちは、昔よりかなり薄れている印象があります。たとえば、授業中に何の断りもなく突然席を立ち、トイレに行って黙って戻ってくるとか。もちろん、人間なので急な腹痛などで席を立つことは仕方がないと思いますが、その際にはひと言声をかけるのが普通じゃないですか?
あと、常識やマナーが身についていない学生も多いです。レポートの提出期限が過ぎているのに、『なんで受け取ってくれないんですか!?』と窓口で騒ぎ立てて抗議する学生がいたり……。
それに、距離感やコミュニケーションの仕方も少し前とは全然違う感じがしますね。たとえば、メールの問い合わせですごく多いのは、LINE世代だからか、チャットのような形で返ってくること。普通なら『◯◯先生、いつもお世話になっています』などの文章から始まると思うんですけど、件名も本文もなく、ただレポートや資料を添付して送ってくる。ファイル内に氏名が書いてあるからいい、とでも思っているのか……」(A氏)
さらに、「特に偏差値が低い学校に、教員に対して友だち感覚で接してくる学生が多い気がします。就職先の企業さんも、本当に困っているんじゃないかな」(A氏)とも語った。
A氏にとって、学生は“手のかかる”存在になってしまっているようだが、一方で、当の学生たちは大学生活をどのように捉えているのだろうか。大学が多く立ち並ぶ都内某所におもむき、直接話を聞いてみることにした。
取材したのは、大手予備校の入試難易度予想で偏差値35~40に分類される大学に通う現役の学生たちだ。
「大学って、勉強がすべてじゃなくないですか? むしろ、バイトや一人暮らし、いろんな人との交流とか、そういう“人生経験”を積む場所だと思っています。
就活でも、学業の成績よりバイトやサークルでの経験のほうが評価されるし、どれだけ勉強したかよりもコミュニケーション能力が求められるじゃないですか。コミュニケーションも立派なスキルだし、社会に出たら学問よりも役立つと思っているんで」(都内私立大学3年生・男性)
「『大学くらいは卒業しておかないと』って思ったのと、まだ青春を楽しみたいって気持ちで進学しました。別に全員が学問を修めたいわけじゃないと思うし、むしろ人生において大事なことって、勉強以外で得られると思っているので……」(都内私立大学2年生・女性)