東京都世田谷区豪徳寺に、65歳以上のシニアが通うキックボクシングジムがあると、SNSで話題になっている。そこには「ミットに打ち込む音がスカッとする」「お茶碗を割るような爽快感!」と語る元気な高齢者たちがいた。その人気の秘密を、柔道整復師で元プロキックボクサーの生井宏樹氏とその利用者に聞いた。
74歳女性「お皿を割る音みたいでスッキリする」
2021(令和3)年のスポーツ庁の統計では、運動不足が原因で毎年5万人が死亡しているという。
国は、健康寿命を延ばし、要介護状態になることや生活習慣を予防する必要性から、適度な運動を推奨しているが、それをはるかに超えるトレーニングをするシニアたちがいるキックボクシングジムがSNSで話題となっている。
シニアが集まる場所と思い、ジムに入ると、そこにはミット打ちの音が響いていた。
実際に通う高齢者たちに聞くと、キックボクシングを始めた理由はさまざまだ。
デイサービスに週5日勤務する女性(73歳)はその魅力を「坐禅は無心になれと言われたってなれない。だけど、キックボクシングは、無心にならないとケガをする。脳トレにもなる」「足が上がらないなら、上がるところまでなど、先生が考えてくれるので安心して通える」と語る。
「実際には割らないけれど、ミットに打ち込む音が、お皿を割る音みたいでスッキリする」(74歳女性)
「病気でガンマGTPが120を超えていたのが、運動を始めたら、45に下がった。6キロも痩せた」(72歳男性)と語るシニアも。
きっかけは、家族に勧められたり、健康への配慮だったりしても、続けるうちに競技自体の魅力にハマってしまった人がほとんどのようだった。
40代後半で、普段、運動をしない筆者も体験させてもらった。10分間のミット打ちで普段動いてない部分が動いて、腰痛が出て息が上がる始末。
「私も最初は腰痛になった」「ヘルニアがあったが、運動したらよくなった」などとシニアたちに励ましてもらう。
運動習慣のある高齢者のほうがよほど元気だった。だけど、確かに、「ドスン!」とパンチを打ち込む音にスッキリする。思い切りパンチすることで、ストレスも発散される。ハマる理由にも納得だった。
(広告の後にも続きます)
利用者のほとんどは女性
講師である、生井氏は神奈川県横浜市出身の41歳。日本大学経済学部を卒業後、専門学校で柔道整復師の資格を取得した。
19歳からキックボクシングをはじめ、2008年に新人王獲得。元J-NETWORKライト級日本ランキング1位にもなった。
リングネームは「生井・パナスティック・英樹」。子どもが産まれたことを機に引退し、23歳からキックボクシングの指導と同時に接骨院に6年半勤務した。
その時の同僚男性とともに、2017年4月に独立し、世田谷区豪徳寺に「接骨院Palledo(https://palledo.shopinfo.jp/)」を開院する。
2021年にはキックボクシングジム「PEACE PACE(https://peacepace.net/)」を開設。柔道整復師として施術を行いながら、シニアにキックボクシングを指導している。
生井氏に、なぜキックボクシング教室を始めたのか聞いた。
「最初は自分のプロフィールに、キックボクシングも教えていることを書いていただけなんです。教室をやる気はなかった。だけど、だんだんと申し込む人が増えて、今では通っているシニアの方は、30人になります。
昔は、キックボクシングというと、男性がやるものでしたよね。それがブームになって、女性もやるようになった。知られることで、今度は高齢者の間でもブームになるんじゃないかと思い、SNSで発信しています」
ジムの利用者は女性利用者が多いという。それはなぜなのか。
「先生が男(生井氏)であるというのは、大きいと思います。男性は、僕みたいな若造に、頭を下げて習うことに抵抗がありますよね。だけど、その分、それを超えて来てくれた方には、敬意を持って接しますし、大切にします」
介護の世界でも、介護拒否が多いのは男性だ。男性は、新しいことを始めるハードルが、プライドの問題で高そうだ。