批評家が選ぶ、ニコラス・ケイジの代表作ランキング!個性派スターの紆余曲折のキャリアを振り返る“フレッシュ”10選

巨匠フランシス・フォード・コッポラを叔父にもつ映画一族に生まれ、32歳でアカデミー賞主演男優賞を獲得。一見すると取っ付きづらそうに思えてしまうその経歴とは裏腹に、娯楽大作はもちろんのことインディペンデントのB級映画にも出演し、なんとも親しみやすいルックスも相まって日本でも多くの映画ファンから愛され続けている個性派俳優、それがニコラス・ケイジだ。


【写真を見る】十数年の間に50本以上に出演!?110本を超える出演映画で最も高い評価を獲得したのは意外な一本 / [c]Everett Collection/AFLO
1990年代に名実共にハリウッドを代表するスターの一人としてその名を轟かせたケイジ。紆余曲折があったこの十数年の間だけで50本近くもの作品に出演し、いまや出演映画の本数はなんと110本以上にものぼる。そこで本稿では、映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」を参考に、これまでケイジが出演してきた映画作品のなかから批評家の評価が特に高い10作品を一挙にピックアップ。そのキャリアを簡単に振り返りながら、ターニングポイントともいえる注目作品をチェックしていこう。


『リービング・ラスベガス』で演技派俳優としての地位を確立 / [c]Everett Collection/AFLO
「ロッテン・トマト」とは、全米をはじめとした批評家のレビューをもとに、映画や海外ドラマ、テレビ番組などの評価を集積したサイト。批評家の作品レビューに込められた賛否を独自の方法で集計し、それを数値化(%)したスコアは、サイト名にもなっている“トマト”で表される。

好意的な批評が多い作品は「フレッシュ(新鮮)」なトマトに、逆に否定的な批評が多い作品は「ロッテン(腐った)」トマトとなり、ひと目で作品の評価を確認することができる。中立的な立場で運営されていることから、一般の映画ファンはもちろん業界関係者からも支持を集めており、近年では日本でも多くの映画宣伝に利用されるように。映画館に掲示されたポスターに堂々と輝くトマトのマークを見たことがある方も多いだろう。


『PIG/ピッグ』の好演で第二の黄金期に突入!? / [c]Everett Collection/AFLO
それでは、ニコラス・ケイジ出演作の“フレッシュ”10傑を挙げていこう。
■98%フレッシュ『レッド・ロック 裏切りの銃弾』(92)
■97%フレッシュ『PIG/ピッグ』(20)
■93%フレッシュ『フェイス/オフ』(97)
■91%フレッシュ『ドリーム・シナリオ』(公開中)
■91%フレッシュ『リービング・ラスベガス』(95)
■91%フレッシュ『赤ちゃん泥棒』(87)
■90%フレッシュ『アダプテーション』(02)
■90%フレッシュ『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(17)
■89%フレッシュ『月の輝く夜に』(87)
■87%フレッシュ『グランド・ジョー』(13)
■87%フレッシュ『マッシブ・タレント』(22)

87%フレッシュの作品が同率で並んだため11作品を選ぶことになったが、先述した通り出演映画は110本以上。約40年のキャリアで、この10倍以上の作品に出ていると考えれば、これでも少ないぐらいだ。そのなかで最も高い評価を獲得しているのが、少々意外なタイトルというの点は実に興味深い。1993年に出演したジョン・ダール監督の『レッド・ロック 裏切りの銃弾』が98%フレッシュという一枚抜けた評価となっている。


殺し屋に間違われる青年を演じた『レッドロック 裏切りの銃弾』 / [c]Everett Collection/AFLO
デニス・ホッパーや「ツイン・ピークス」シリーズのララ・フリン・ボイルと共演した同作は、仕事を求めてテキサスからワイオミングの田舎町にやってきた青年マイケルが、殺し屋と間違えられて保安官から妻殺しを依頼される。安易に引き受けてしまいターゲットに接触すると、今度は彼女から夫殺しを依頼されてしまう。金だけもらってズラかろうとした矢先、本物の殺し屋が現れるという、巻き込まれサスペンスの傑作だ。

1980年代前半にキャリアをスタートさせ、91%フレッシュを獲得したコーエン兄弟の『赤ちゃん泥棒』と89%フレッシュを獲得したノーマン・ジュイソン監督の『月の輝く夜に』で一気にその実力が認められたケイジ。この『レッド・ロック』という作品は、まさに上昇気流に乗っている時期の出演作といえよう。そしてこの2年後、91%フレッシュの『リービング・ラスベガス』でアルコール依存症の男が抱える孤独を見事に体現してオスカー俳優となり、さらなる快進撃が幕を開けるのである。


1990年代後半にはアクション大作で大活躍! / [c]Everett Collection/AFLO
『ザ・ロック』(96)と『コン・エアー』(97)、そして93%フレッシュの高評価を獲得している『フェイス/オフ』と、3作続けて出演した大作映画が興行的に大成功。『リービング・ラスベガス』で勝ち取った演技派俳優としての地位と、ドル箱スターとしての地位の両方をほしいままにしただけでなく、『スネーク・アイズ』(98)ではブライアン・デ・パルマ監督、『救命士』(99)ではマーティン・スコセッシ監督と、錚々たる監督たちに愛されたのもこの時期だ。

不遇な脚本家とその双子の弟を一人二役で演じた『アダプテーション』は、90%フレッシュを獲得しているように作品としても魅力的であり、同時にケイジの役者としての力量の高さも存分に味わえる一本だ。そしてその翌年に出演したリドリー・スコット監督の『マッチスティック・メン』(03)もついつい見落とされがちな作品ではあるが必見。しかしこのころから急激にキャリアが行き詰まり、主演を務めた大作映画の興行的な失敗が続き、“最低”の映画を決めるゴールデン・ラズベリー賞の常連俳優とまでなってしまう。


『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』はベルギーのバイオレンススリラー / [c]Everett Collection/AFLO
2010年代に入ると突然大量の作品に出演するようになったのは、長年の浪費癖がたたって借金が膨れ上がり、その返済にあてるために作品を選ばなくなったから。その多くがインディペンデント系のジャンル映画であり、大半の作品で主演を張っているのだから流石である。しかもそんな時期の出演作でも、87%フレッシュを獲得した『グランド・ジョー』や90%フレッシュの『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のように高評価作品があるのだから侮れない。

そんな十数年が良きカンフル剤となったのか、借金返済後に2度目の黄金期に突入したケイジ。愛豚が誘拐されてしまったトリュフハンターを演じた『PIG/ピッグ』は、97%フレッシュという高評価に加え、ケイジのキャリア随一の名演と大絶賛を獲得。さらに87%フレッシュの『マッシブ・タレント』に、91%フレッシュの『ドリーム・シナリオ』と、ここにきて高評価を連発。プライベートでも5度目の結婚をするなどまさに順風満帆だ。


2021年には5度目の結婚!公私共に順調 / [c]Everett Collection/AFLO
どん底から見事に這い上がった唯一無二の個性派スターはまだ60歳。一時期に比べると出演作は減少傾向にあるが、それでも2025年にもすでに3本が北米で公開待機。今後さらなる躍進を見せてくれることだろう。

文/久保田 和馬