Credit: Adrien Lesaffre(eurekalert, 2024)

オオカミはご存知のように肉食の捕食者であり、通常はネズミやシカなどの野生動物を狩って食べています。

しかし最近、英オックスフォード大学(University of Oxford)の調査で、昆虫のように花蜜を吸う「甘党オオカミ」が発見されました。

このオオカミは東アフリカのエチオピア高地に生息する種で、大型の肉食動物による花蜜摂食の記録は初めてと見られます。

また鼻先や口周りに大量の花粉をつけて花から花へと移動していたことから、受粉の媒介者としても機能している可能性があるようです。

研究の詳細は2024年11月19日付で科学雑誌『Ecology』に掲載されています。

 

目次

花蜜を食べるオオカミを発見!オオカミが「受粉の媒介」をしている初の証拠かも

花蜜を食べるオオカミを発見!

今回、花蜜を吸うことが確認されたのは「エチオピアオオカミ(学名:Canis simensis)」という種です。

エチオピアオオカミはその名の通り、”アフリカの角”に位置するエチオピアに分布し、その中でも特に標高3000〜4400メートルの高地に広がる草原に生息しています。

淡い褐色の毛並みで全長は大人で1メートル前後、その見た目の近似性から元々はジャッカルに近いと考えられていました。

今でも和名を「アビシニアジャッカル」と呼んだりしています。

しかし近年のDNA研究で、本種はジャッカルよりもオオカミに近いことが確認されました。


Credit: ja.wikipedia, ja.wikipedia

その一方で、エチオピアオオカミはアフリカ内でも最も絶滅の危機に瀕している動物の一つであり、すでに6つの飛び地に限定された99の群れの中で500頭以下しか生存していないと推定されています。

そこで本種の絶滅を食い止めるべく、「エチオピアオオカミ保護プログラム(EWCP)」という団体が1995年に設立されました。

EWCPはエチオピアオオカミの保護を適切に進めるために、本種がどのような行動を取り、何を食べているのかを研究しています。

今回の調査もその一環であり、オックスフォード大学の野生生物保護調査ユニット(WildCRU)と共同で行われました。


花蜜を舐めるオオカミ / Credit: Adrien Lesaffre(eurekalert, 2024)

そして研究チームが2023年5月下旬から6月上旬にわたりフィールドワークを行う中で、奇妙な光景を目にします。

なんと肉食動物であるはずのオオカミが現地に自生する花の蜜をおいしそうに舐めていたのです。

しかも1度や2度ではなく、何日も連続して花蜜を訪れており、1つの花蜜を舐め終わるとまた別の花へと移動していました。

エチオピアオオカミは普段ネズミやウサギを主食としており、時々、鳥類やその卵を食べることがわかっています。

しかし植物である花蜜を食べることは知られていませんでした。

一体何の花の蜜を食べていたのでしょうか?

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オオカミが「受粉の媒介」をしている初の証拠かも

オオカミが食べていたのは、現地に自生する「エチオピアン・レッドホットポーカー(学名:Kniphofia foliosa)」と呼ばれるシャグマユリ属の花蜜です。

この花は毎年6〜11月に開花期を迎え、地上からまっすぐ伸びた茎の先端に小さな筒状の花を穂状にたくさん咲かします。

開花期にはそれぞれの花から大量の蜜を分泌し、昆虫や小鳥を引き寄せることが知られていました。


エチオピアン・レッドホットポーカーを舐めるオオカミ/ Credit: Sandra Lai et al., ECOLOGY(2024)

研究主任の一人であるクラウディオ・シレロ(Claudio Sillero)氏もこの花の存在については以前から認知しています。

「私が最初にエチオピアン・レッドホットポーカーの密に気づいたのは、現地のベール山脈で羊飼いの子供たちが花を舐めているのを見たときでした。

それを見て私もすぐに舐めてみました。蜜はとても心地よい甘さでした」

しかしエチオピアオオカミが昆虫や小鳥、そして子供たちと同じように蜜の味を楽しんでいるとは思ってもいませんでした。

調査期間中、チームはエチオピアオオカミが頻繁に花を訪れて、舌でペロペロと蜜を舐めとっている様子を記録しました。

蜜を舐める時間は1つにつき約3〜15秒であり、多いときには1頭で30箇所もの花を渡り歩いて、蜜を食べていたのです。

さらに蜜を食べるのは大人のオオカミだけではなく、子供たちも親や他の群れのメンバーについていっていました。

このことから花蜜を食べる彼らの行動は、大人から子供へと伝えられる学習行動であると考えられます。


受粉を媒介している可能性も/ Credit: Sandra Lai et al., ECOLOGY(2024)

さらに重要なポイントとして、オオカミの鼻先や口周りに大量の花粉が付着していることが指摘できます。

オオカミたちは花粉をつけたまま別の花へと移動していたことから、花の受粉を媒介している可能性が非常に高いのです。

実際にオオカミによって受粉が成立していることが確認されたわけではありませんが、研究者たちはエチオピアオオカミの花蜜接触が送粉者として花の繁殖にも役立っているのではないかと考えています。

受粉の媒介はハチやチョウを代表とする昆虫の他に、小鳥やコウモリ、小型の哺乳類などで確認されてきました。

しかしエチオピアオオカミのように、大型の肉食動物が送粉者となっているとすれば、これは史上初めてのケースだといいます。

今回の結果を受けて、研究主任のサンドラ・ライ(Sandra Lai)氏は「世界で最も脅威にさらされている肉食動物の一種について、まだ学ぶべきことがいかに多いかを浮き彫りにしてくれました」と述べています。

ただ新たに判明したこの知見はエチオピアオオカミの生態の理解を深め、適切な保護活動を進めるのに役立つでしょう。

参考文献

Sweet tooth- Ethiopian wolves seen feeding on nectar
https://www.eurekalert.org/news-releases/1065557

These wolves are the first known carnivores to ‘enjoy’ sweets
https://www.popsci.com/environment/ethiopian-wolf-drinks-nectar/

元論文

Canids as pollinators? Nectar foraging by Ethiopian wolves may contribute to the pollination of Kniphofia foliosa
https://doi.org/10.1002/ecy.4470

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部