“らしさ”満載の現役ラストマッチ。長谷川アーリアジャスールが18年間のプロ生活に幕。多くのファンや元同僚が集結「僕は幸せ者です」

 現役最後の瞬間はピッチで迎えた。

 J3最終節、SC相模原対ガイナーレ鳥取の90+5分、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響くと、18年間のプロ生活が幕を閉じた。現役ラストマッチは0-1の敗戦。プロサッカー選手としてのキャリアを終えた鳥取の長谷川アーリアジャスールは、「チームとしての結果を勝ち取れなかった」悔しさを募らせながらも、「とても清々しい気持ち」でピッチを後にした。

 ベンチスタートだった長谷川は60分に途中出場。約30分間のプレータイムには、長谷川らしさがいっぱい詰まっていた。

 ボランチのポジションでボールを引き出し、チャンスをうかがっては相手の急所にパスを通す。チームメイトからの横パスをワンタッチでポケットに配球したボールの軌道は、長谷川らしさが凝縮された放物線。

 相手ゴールを脅かす77分と87分の配球は、長谷川の真骨頂だ。試合終了直後、お互いのユニホームを交換するほど親交が深く、横浜F・マリノスの下部組織出身の同期である相模原の田代真一は、こう言って目を細めた。

「自分はピッチに立てなかったけど、現役最後のゲームで対戦できたことは感慨深かったです。アーリアがボールを持つとチームが落ち着くし、落ち着いたゲームコントロールはさすがでした」

 89分には相手のカウンターを阻止する“プロフェッショナルファウル”で、現役最後の警告を受けた。自身の縦パスが原因となったボールロストを挽回しようとした結果だが、チャンスを潰す形になった伊藤恵亮に対して「謝った」のも実に長谷川らしい。伊藤へのピッチ上での謝罪は、長谷川にとって、「自分に素直に、相手を大事にしてリスペクトする」姿勢を貫いた格好だ。

 現役生活を「やり切った」と語る長谷川を、林健太郎監督はこう言って労った。

「もう尊敬しかないですね。プロ選手としてあるべき姿を見せ続けてくれました。まさにお手本のような選手でした。私がブレずに指揮を執れたのも、アーリアのおかげです。アーリアは人間的にも素晴らしいものを持っている選手ですし、誰よりも愛されるキャラクターでした」
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 長谷川が愛されるキャラクターの持ち主であることは、現役最後の試合を取り巻く状況が全てを物語る。合計9クラブでプレーした長谷川の現役最後の瞬間を見届けようと、相模原ギオンスタジアムには“アーリア推し”のファン・サポーターが数多く詰め掛けた。

 試合後の鳥取サイドのゴール裏では、「みんなが恋したアーリアありがとう」というメッセージつきの横断幕が掲げられた。また試合会場にはかつてのチームメイトが多数集結。横浜の水沼宏太やFC東京の東慶悟、FC町田ゼルビアの中島裕希、福井光輝ら、親交の深かった選手たちが現役ラストプレーを目に焼きつけた。

 ファン・サポーター、そしてチームメイトに愛されていたことを象徴する光景を目にした長谷川は、「僕は幸せ者です」と瞳を潤ませた。

 プロサッカー選手として、18年間、その身を捧げた長谷川の人生第一章はこうして幕を閉じた。スパイクを脱ぐ長谷川は、この先に続く人生の第二章に向けた“青写真”をこう描く。

「先週の引退セレモニーでも伝えさせていただきましたが、日本サッカーのために、自分にできることをやりたいです。これからフラットに自分の可能性を探っていきたいと思います」

 スパイクを脱いでも気の休まる日はなく、年末には「ビッグイベント」が控えているという。「これからがとても楽しみな」第二章に向けて、長谷川が走り出した。

取材・文●郡司聡(スポーツライター)

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