「とんでもないことを成し遂げた」“公立”大津がプレミアWEST初制覇の快挙。選手たちが描く青写真「あと2回日本一を取れるチャンスが残っている」

 プレミアリーグWESTの開幕から大津高校が積み上げた勝点は52。11月24日に行なわれた第20節で静岡学園高校に2-1で勝利した結果、2位のヴィッセル神戸U-18を引き離し、2節を残しての優勝が決まった。大津は12月にEASTの王者とプレミアリーグファイナルで対戦し、日本一を争う。

 これまでWESTで優勝経験を持つのはサンフレッチェ広島F.Cユースを始めとしたJリーグのアカデミー勢のみで、高体連の優勝はなかった。EASTを含めたリーグ全体で見ても、青森山田高校や流通経済大学付属柏高校といった私立の優勝はあっても、公立のタイトルは一度もない。

「俺が生きている間に高体連の県立学校が(プレミアリーグ)ファイナルに行くなんて思わなかった。長生きはするもんだな(笑)。冷静に考えると、とんでもないことを成し遂げた」

 チームの礎を築き、現在はテクニカルアドバイザーとして指導に携わる平岡和徳氏が冗談交じりにそう口にするのも無理はない。高校年代最高峰のリーグは、公立高校が残り続けることすら難しい舞台だ。

 プレミアに在籍した過去8シーズンを振り返ると苦難の連続だった。初参戦となった2013年はわずか2勝に終わり、最下位で降格。2度目の参戦となった2016年は何とか降格圏内を逃れたものの、翌2017年は2度の5連敗を喫し、再びプリンスリーグ九州への降格を余儀なくされた。

「セレッソとやる度に7点取られた年もある。サンフレッチェと対戦したら満田誠に3点取られたこともある。毎週が苦痛でしょうがなかった」(山城朋大監督)。
 
 一度降格すると二度とプレミアの舞台に戻れないチームもあるなか、何度も戻ってくるのは大津の凄さであり、逞しさかもしれない。3度目のチャレンジとなった2019年は濃野公人(鹿島アントラーズ)らの活躍もあり、4位でフィニッシュ。2020年と21年はコロナ禍の影響により変則的な開催となったが、高校年代最高峰のリーグへの残留をつかみ取った。

“プレミア慣れ”によってチームの戦い方にも変化が見られはじめる。以前は5バックで守りを固めて、カウンターによる相手のミスから生まれた得点で何とか引き分けに持ち込むのが精いっぱいだったが、年月を重ねるにつれてボールを動かし、大津が主導権を握る試合も増えていった。

 今年の3年生が入学した2022年は9勝5分8敗と勝ち越し、6位でシーズンが終了。この年は、主将を務めるDF五嶋夏生(3年)ら1年生から大舞台を経験した選手も多かった。

「毎回、山下景司や嶋本悠大など仲間のプレーを試合で見る度に“こいつが相手じゃなくて良かった”と思う。そうした“相手にいたら嫌だな”と思う選手が集まり、下級生から主力として経験を積めたのは大きい。そこが他のチームと違うところ」

 そう話すのはMF舛井悠悟(3年)で、今年の主力は2年生だった昨年の時点でプレミアの舞台を経験してきた。彼らが大舞台での経験値を積めたのも、先輩たちが死に物狂いでプレミアという晴れ舞台を後輩たちに残し続けたからだ。

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 山城監督は初優勝が決まる静岡学園戦の前日、選手にこんな言葉を投げかけたという。

「今年プレミアリーグで優勝できるだけの力を持つチームはプリンスリーグにもある。ヴェルディもそうだし、ガンバもそう。なぜ君たちがプレミアリーグで優勝争いできているかというと、プレミアリーグに残れているから。ずっとプレミアリーグで戦えてきたから、こうやって優勝争いができている」

 堂々たる戦いぶりで頂点まで駆け上がった先輩たちの姿を目の当たりにした後輩たちも来年以降、勝点を積み上げてまた次世代にプレミアというバトンを渡していくだろう。
 
「ファイナルの相手はまだ決まっていないのですが、どこが来ても大津らしいサッカーをしたい。ファイナルでも勝って、勢いをつけて選手権に挑みたい」

 MF兼松将(3年)がそう口にすれば、舛井も続ける。「ファイナルに行くからには勝って日本一を取りたいし、今年はラッキーなことにあと2回日本一を取れるチャンスが残っている」。

 大津の選手たちが描く青写真は、残る2つのタイトル。プレミア初優勝の勢いのまま駆け上がっても不思議ではない。

取材・文●森田将義

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