Credit: Pixaby

水星の逆行が話題になっていますがって、水星の公転周期が早いため(約88日)地球と水星の公転周期の違いによっておきる、見かけ上の現象です。

これは年に3回ほど起きる現象なので、そこまで珍しいわけではないですが、星の運動の逆行というのは、地球と惑星の位置関係や運動について意識する良い機会になるので、観測に挑戦するのに面白いタイミングです。

とはいえ、水星は非常に観測が難しい惑星として有名です。星好きの人ですら「見たことがない」人が多いのです。

地動説を唱えたことで有名なコペルニクスですら、実は直接水星を観測したことがなかった、なんて逸話があるほど。

高度が上がらず、夜明けか日没後のわずかな時間しか見えないので、あらかじめベストな日時を調べておいて狙わないと、到底見ることがかなわない惑星なのです。

目次

水星ってどんな星?地球とはいろいろ異なる水星の生活

水星ってどんな星?

今回は、空気が澄んでいて星が見えやすく、日の沈むのが早くて観測にのぞめる時間が長い冬の時期と、高度がもっとも高くなる東方最大離角のタイミングがあわさりました。今年度ではもっとも観察しやすいかも。

こちらは筆者が2020年2月9日に撮影した、金星と並ぶ水星です。


上にある明るい星が金星で、中央のビルの右斜め上にあるのが水星/Credit: ofugutan(2020年2月8日撮影)

水星の明るさは約マイナス0.4等級で、観測には十分に思えます。しかし、水星は太陽の明るさが残っている時間帯しか観測できず、空の低い位置に浮かぶので地球の大気の影響で、実際の明るさよりも暗く見えてしまいます。

しかし徐々に空が暗くなる一番見えやすいタイミングを見逃さないようにすれば、双眼鏡がなくても肉眼で見ることができます。

中心にはさっき沈んだ太陽、太陽の周りをまわる、水星、金星、今立っている地球、と順番に公転軌道を円周でイメージしていくと、太陽系の一員として地球があって、その上に自分はいるのだなあと感慨深く感じられるはず。


Credit: NASA

水星は太陽系でもっとも小さな惑星です。地球のおよそ5分の2ほどの大きさで、重力は約3分の1、重さはたったの18分の1ほどしかありません。

いっぽう、太陽系の惑星のなかで地球の次に密度が高く、直径の3分の2から4分の3にもなる巨大な核があると考えられています。

英語名は「Mercury」。ギリシャ神話の世界を飛び回って情報を伝達する神々の使者、ヘルメス(Hermes)からきています。ローマ神話ではメルクリウス(Mercurius)で、英語だとMercuryになるわけです。

ヘルメスは神々のなかでもっとも賢く、すばしっこい神。水星は公転周期が短く、明け方や夕方のわずかな時間にしか見えない素早い動きから、その名を与えられました。

実は地球の1番近くにある惑星

太陽系の惑星の順番といえば、「水、金、地、火、木、土、天、海」。地球の隣は金星と火星です。金星のほうが火星よりも地球に近い軌道をまわっているので、一番地球に近いのは金星だと思ってしまいますよね。

ところが、それぞれの星はたえず公転しており、スピードもさまざま。一定の距離間をキープしているわけではありません。

水星は公転周期が短いので、頻繁に地球と近づきます。こちらの動画をご覧ください。各惑星の公転軌道の平均を見ると、水星は地球から一番近い星、といえるわけですね。


青が地球、灰色が水星を表す/Credit: Tomment Section / YouTube

このように公転周期の速度もだいぶ地球と異なるため、地球から水星を観測すると年に3回逆行して見えるタイミングがあるのです。

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地球とはいろいろ異なる水星の生活

金星は自転が遅く、1日が1年より長いため、まだ今日が終わってないの、1つ年を取ってしまった…となりますが、水星の生活もなかなかのもの。

水星の公転周期は約88日、自転周期は約59日で、太陽の周囲を2回公転する間に3回自転します。

水星で生活するとして、1日を「太陽日」で考えましょう。太陽が1番高い位置に達して、次に高い位置に達するまでを1日とすると、水星での1日は、約176日になります。

太陽のまわりを1回転する公転周期(1年)は88日なので、水星の1日=水星の2年という計算ですね。

しかも、88日間は昼間で太陽が照りっぱなし、次の88日間は夜で日が差さない日が続く(昼間88日+夜88日でまる1日=176日)のを繰り返します。

このことと、重力が小さいので大気がわずかしかないことが、水星の昼間の温度は最高で約430度、逆に夜はマイナス160度という、昼夜で大きな温度差を生み出しています。

なお、昼間は非常に暑くなるにもかかわらず、地軸の傾きが0度なので四季はありません。極に近いあるクレーターには1年中太陽光があたらないので、氷の存在が確認されています。

水星では日の出の途中で突然日が沈むことがある

水星の逆行が話題になっていますが、地球からの見かけの運動の問題とは別に、もし水星で生活した場合、特定のポイントで日の出の途中に太陽が逆行して一度沈み、その後再びのぼる現象が見られることがあります。

公転軌道が楕円形のため、太陽にもっとも近づく前後4日間は水星の軌道速度と自転速度が等しくなるために起こるとのこと。


Credit: depositphotos

直径の4分の1以上に相当するクレーター

水星の表面はクレーターでいっぱいです。彗星や隕石の衝突を軽減する大気がほとんど無いですしね。

そんななかで水星の直径の4分の1を占める「平原」が目に付きます。カロリス盆地と呼ばれ、直径1,300kmもあります。およそ36億年前に、直径100キロメートル程度の天体の衝突によって作られたというのが一説。水星を観光するなら、1番の見どころですね。


Credit: NASA カロリス盆地

ほかに水星特有の地形として、リンクルリッジと呼ばれる高さ約2km、距離は最長クラスで約500kmになる断崖がいくつもあります。水星ができたばかりのときは熱かった核が、冷えて収縮したときに星の表面とともに縮んでシワのようになったのではと考えられています。

小さい星なのに、固有の磁場がある謎

自転速度が遅いのに、水星は地球の1.1%にあたる比較的強い磁気圏を持っています。

地球や木星に磁場があるのは、硬い金属の核のまわりに液体金属が存在する外核があって、それらが流動して電流が生じ、磁場が形成されるからです。

水星は小さいので、形成後急速に冷えて中心の核も早く固まったため、核に液体部分を持たないと考えられ、つまり磁場はないと思われていました。

それが1970年代、探査機マリナーによって磁場があることが発見され、2002年からの電波望遠鏡による複数の観測や、探査機メッセンジャーの探査を経て、内部に液体部分があって固有の磁場があることがわかりました。また、地球ではほぼ中心にある「棒磁石」が中心から北にずれている新たな謎が見つかりました。


Credit: 九州大学(プレスリリース)

この謎の解明は、九州大学が行っています。中心核内部の磁場が自己調整機構によって対流をコントロールすることで、自発的に生成・維持されていると考えられるそう。地球と比較することで、両方の星の起源や進化について研究が促進しそうで興味深いですね。

水星の隕石が買える?

水星について知ると興味がわいてくるもの。「アポロの月の石」みたいに、水星の石が入手できたらロマンじゃないですか?

地球に飛来する隕石を通して、月の石や火星の石は一般の人でも買うことができ、筆者も所持しています。

NWA7325という、水星から飛来した可能性があるという隕石が市販されていたこともありました。

実際のところ、母天体ははっきりわからないけれど、水星よりも小惑星由来の可能性が高そうというもので、聖徳学園大学のレポートでは、太陽系の初期にできた母天体からきたもので、水星由来ではないと明言されていますが、水星の隕石が地球にあるというのはロマンを感じますね。


NWA7325隕石/Credit: skyfall

2024年の水星の逆行は、11月26日~12月16日の間起こります。ぜひ、自分の目で見てみてください。「コペルニクスも見ていないって言われる水星を見られた!」なんて自慢できるかもしれませんよ。

参考文献

国立科学博物館
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/mercury_venus/mrcvns03.html

九州大学(PDF)
http://www.kyushu-u.ac.jp/f/34908/19_01_15_3.pdf

ライター

ofugutan

編集者

ナゾロジー 編集部