埼玉県川口市で今年9月29日早朝、酒酔い運転で一方通行の市道を逆走した暴走車が猛スピードで交差点に侵入、出合い頭で激突した乗用車を運転していた男性を死亡させた。暴走車には4人の若者が乗っており、運転していた中国籍の男(19)は即日逮捕され、現場から逃走していた2人も翌日警察に出頭した。その後、16歳の少年も11月8日、道交法違反(酒気帯び運転同乗)容疑で書類送検された。しかし、埼玉県警が逮捕した19歳の男を危険運転致死容疑で送検したにもかかわらず、さいたま地検が家裁送致したのは過失運転致死という、結果責任とは相容れない「軽い」罪名だった。
「加害者の母親から電話があり…」
「19歳の男は当然、道交法違反(酒気帯び運転)にも問われていますが、男性を死なせた罪を構成する『自動車運転死傷処罰法』では故意性が認められず、7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金が法定刑の『過失』になりました。
仮に『危険運転』が適用され、故意性が極めて強いと判断されれば刑法199条の殺人罪(死刑・無期または5年以上の懲役)で処罰されることもあるだけに、遺族感情を斟酌すれば『無念』との声もあるでしょう。
地検がこの処分に至ったのは、現場の一方通行から二輪車が除外されており、危険運転致死罪は規制対象を限定した道路には適用しないという規定があったからです」(社会部事件担当デスク)
事件か事故かによって量刑は大きく異なるが、被害者の男性や遺族にとってはそんなことは関係ない。亡くなった川口市在住の会社役員の男性(当時51)には、何の落ち度もなかったのだから。
凄惨な事故現場の近くに住む男性の記憶も生々しい。
「折れた街灯のあった場所はコンクリートで塞がれて、道もきれいにはなりましたが、車が衝突して止まったアパートの壁は今でも板をはり付けたままで、あらためて凄まじい事故だったなと思います。ウチの車も衝撃で飛んできた破片で傷つきましたからね……。
亡くなった方の献花台には今もお花や飲み物などが供えられていて、手を合わせる人を見かけます。取り返しのつかないことではありますし、まずは亡くなった方に関する補償などをきちんとしてほしいと思いますね」
男性の傷ついた車は、修理中だという。
「加害者側の保険でまかなってもらえるそうで、修理に出しているところです。事故が起きたのは日曜日で、その次の週に加害者の母親から電話がかかってきて『申し訳ない、申し訳ない』とずっと平謝りでしたよ。
加害者が乗っていたのはレンタカーだったので、飲酒運転では保険が下りないという話で半分あきらめていたんですが、その電話から何週間か後に、今度は保険会社から電話がかかってきました。
加害者の母親が加入する保険の特約が適用できることになり、それでウチの車の補償もしてもらえることになったんです。
それにしてもあの事故を、危険運転致死罪では問えないとニュースで見て愕然としました。あの一方通行を100キロ超えで走ってきた映像も見ていますし、あれが危険運転でないなら法律はおかしいと思う。ご遺族はやり切れないでしょうね」
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「遺族の思いをくむ法律であってほしい」
事故で折れた街灯を管理していた商店会の関係者も、こう声を落とした。
「一応、事故の補償関係については加害者の母親の保険の特約で対応していただくことで落ち着きそうです。事故からすぐに、母親から商店会長のところに泣きながら謝罪の電話があったものの、その後は少しすったもんだがあったんです。
というのも、加害者の乗っていたレンタカー会社の保険では、折れた街灯には適用できず、皆で頭を抱えていたんです。でも事故から2週間くらいたって母親の加入する保険会社から連絡があり、街灯を元通り修復するのに約140万円かかると見積もりも出たようです。今はそれをすべて補償で賄うのか、一部にするのか、細かなところを詰めている最中だと思います」
この商店会関係者の知人は、亡くなった男性と親交があったという。
「その知人は被害者の葬儀にも参加していました。そして今でも献花台のほうに手を合わせに来る人も多くいます。被害者にはまだ小さなお子さんもいらっしゃるようだし、一番はご遺族に対する補償を行なってほしいです。
それに危険運転致死罪に関して、法律が間に合っていないんじゃないかという声も多くなっていますよね。あの一方通行道路を100キロ以上のスピードで走ってきて危険運転ではないというのは基準がよくわからないですし、遺族の思いをくむような法律であってほしいと思わざるをえませんね」
送致を受けたさいたま家裁が、いずれ刑事処分相当で逆送致し、それを地検が起訴する流れで事件の処理は進むはずだ。公判も見据えた今後が注目される。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班