こんな日が来るとは思っていなかった。iPhone 3Gを買ってから16年。ついに、iPhoneを作っている人にインタビューすることができた。話を聞いたのは、iPhoneプロダクトデザイン担当Vice Presidentのリチャード・ディンさん、iPhoneプロダクトマーケティング担当のフランチェスカ・スィートさん。興奮の1時間の間に聞いた話をお伝えしよう。

スタンダードモデルと、Proモデルの根源的な違いは2017年に遡る

ディンさんは、iPodの時代からアップルデバイスに関わっており、初代のiPhoneから開発に携わっている。そして先月ついにiPhoneプロダクトデザイン担当Vice Presidentに昇格した。つまり、我々が使ってきたiPhoneをずっと作ってきた人ということになる。スィートさんは、Beats by Dr. Dreからアップルに入った人。アップル本社の発表会などでお見かけしたことがある。

「日本で発売されたiPhone 3Gから、毎年iPhoneを買ってるよ!」と、手元に用意してあった初代iPhone(これは後日中古で購入したもので、最初は持っていなかった)と、iPhone 3G、そしてiPhone Xの発売時に作った『iPhone10周年完全図鑑』という本を見せたら、ふたりとも笑ってくれた。

iPhone10周年完全図鑑

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特に、ディンさんは、僕らが最初に買ったiPhoneからすべてに関わってらっしゃるということで、聞きたいことを山ほど思いついてしまって困った。しかし、時間は限られている。核心をついた質問をしなければならない。

筆者が一番気になっていたのは、iPhoneのスタンダードシリーズと、Proシリーズの決定的な違いだ。いろいろな要素があるが、バッテリーの形状とセル数が気になる。iPhone 8から始まるスタンダードシリーズは大きな1セルだが、iPhone Xから始まるProシリーズは2セルをL字型に組み合わせて使ってる。


iPhone X(左)と、iPhone 16 Pro(右)の中身。Xは歴代のProに繋がる2セルL字型配置の初代であったことが分かる。L字型の凹みの部分にA11 Bionicチップが搭載されている。Face IDも本機が初代。L字型バッテリーによりカメラスペースも広がっているが、まだ小さい。Xはディスプレイ側から開いているが、16 Proは背面側から開けられるようになっていることに注目。

ProシリーズはセルをL字型にすることで、大きな放熱の仕組みを持つチップセットを搭載できて、カメラにも大きなスペースを割くことができる。しかし、価格が高価になるので、それをパッケージとして正当化するために、ステンレスやチタンのフレームを組み合わせたのではないだろうか。

対して、スタンダードシリーズは、単セルなので、バッテリー容量を大きくすればするほど、カメラやチップセットに割くスペースに困ることになる。価格も安いラインなので、比較的安価に作れるシンプルなアルミのボディで作られている。


初代iPhone(左)、iPhone 8 Plus(中央)、iPhone 16 Plus(右)。一見、初代iPhoneの基盤は小さいように見えるが、初代から3GSまでは2段構造になっており、今のようなバッテリーとチップセットが同じ面に乗るのは4から。どんどん機能がチップセットに集約され、肉眼で見える限りはシンプルになっていっていることが分かる。

このスタンダードモデルが単セル、ProモデルがL字型バッテリーという考察は合っているのだろうか?

「僕が記憶している限りでは、それは正しいですね」とディンさんは答えてくれた。しかし、今年のiPhone 16では、チップセットをバッテリー上部に移動して(これまではバッテリーの横だった)、バッテリー自体を短くワイドな形状にすることでスペースを作っている。対して、iPhone 16 ProシリーズはやはりL字型バッテリーを使っているが、今年は、金属の筐体に入れて、バッテリーの化学的組成を変更し、よりエネルギー密度を高めているとのことだった。

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『Reparability』向上のために、16からProモデルにも『Central Structural Frame』を採用

続いては、フレーム構造の話。

iPhoneは、iPhone 5から、背面側がケースになっていて、ディスプレイをフタのように開いて、内部にアクセスする構造になっているものが多い。これを『Bucket Style Design』(バケツ構造)と彼らは呼んでいる。iPhone X世代以降は背面がガラスになって、非接触充電(12からはMagSafe)がそこに組み込まれるようになっている。

しかし、スタンダードモデルはiPhone 14から『Central Structural Frame』という構造になっている。


iPhone 16の内部構造。左がディスプレイ側。中央が『Central Structural Frame』を使ったメインシャシー。右が背面パネル。黒い部分が炭素素材を接合したアルミのクラッド。

この構造は欧州を中心に問題にされている『Reparability(修理のしやすさ)』に対応するためのもの。ディスプレイ側が開くiPhoneでは、認証に使われるために非常にデリケートな存在であるFace IDを外さねばならず、修理難易度が極めて高い。対して、『Central Structural Frame』では、背面側から多くの部品にアクセスできるために、Face IDを外すなどの難易度の高い作業をしなくても、バッテリー交換などの作業が可能になっている。

では、Proモデルについてはどうだったのか? この点についてディンさんに聞いてみた。

「おっしゃる通り、スタンダードモデルは、14、15、16とも航空宇宙グレードのアルミニウムを使った『Central Structural Frame』が我々のデザインの中核になっています。そして、今回、Proモデルに初めて『Central Structural Frame』を採用しました。熱と質量を抑えるためにチタンの材料比率を減らしながら、中央の熱拡散面をTitanium Aluminium Clad Frameに結合するための新しい製造プロセスが必要でした」とディンさん。


iPhone 16 Proの内部構造。左がディスプレイ側。中央がスタンダードモデルと同様の構造になった『Central Structural Frame』を使ったメインシャシー。アルミとチタンの接合部分に注目。右が背面パネル。

シャシーを構成するアルミ部分と、周囲のチタンフレームの部分は特殊なレーザー溶接によって結合されるが、この製造プロセスが可能になり、iPhone 16 ProシリーズからProモデルも『Central Structural Frame』を採用し、Reparabilityを向上することができるようになったということだ。