これまで、ロシアじゅうの刑務所から囚人志願兵をかき集めたり、国籍を与えることを餌に移民や外国人労働者らをウクライナ戦争の最前線に送り込んできたプーチン大統領。そしてついに11月23日、軍への入隊の引き換えとして借金をチャラにする、というとんでもない法律に署名したことが明らかになった。
法律の中身は、12月1日以降に軍と1年以上の契約を結べば、兵士やその配偶者が滞納している借金を1000万ルーブル(日本円で約1480万円)を限度に返済免除とするというもの。2022年のウクライナ侵攻以降、ロシア軍が失った兵士の数は5万人とも7万人とも言われ、その欠員を補うためロシア軍では手を変え品を変えてリクルート活動を行い、国民の不満が根強い総動員令の再発動を回避してきた。
「北朝鮮兵の大量投入もその一環で、受刑者や外国人だけでなく、一般の志願兵に対しては平均給与の数倍に上る高額報酬を提供するなどして、特に地方で暮らす低所得者などを積極的にリクルートしてきたとされます。とはいえ、専門的な訓練もそこそこに前線に送られるため、しょせんは『人間の盾』にしかならない。結果、数は増えたものの兵力増強とはならず、現在に至っているというわけです」(ロシア問題に詳しいジャーナリスト)
そんな中、「戦争を終わらせる」と公言する米トランプ政権の来年1月スタートを前に、ウクライナはロシア西部に米国製地対地ミサイル「ATACMS」を撃ち込むなど、総攻撃に転じてきた。来年の停戦合意も視野にあるゼレンスキー氏としては当然、この2カ月に勝負をかけてくるはず。ならば、プーチン氏もどんな犠牲を払ってでも今取れるところは取っておきたい。それがこのタイミングでの「借金免除」につながったことは想像に難しくない。
「しかし22年にウクライナに侵攻して以来、ロシア人の個人債務は増加傾向にあり、ロシア中央銀行は、この10月に政策金利を21%に引き上げたばかり。債務消滅ということになれば当然、銀行の貸し渋りや貸し剥がしが促されることになり、債務は政府が肩代わりするにせよ経済がインフレになることは避けられない。そうなれば世論の政府批判が高まることは必至で、結局、なりふり構わぬ無謀な人集め法だということです」(同)
しかも戦場に駆り出される側としても、借金が帳消しなったところで命を落とせば元も子もない。さらに独立系メディアの報道によれば、ロシアではいまだ徴兵された人々の生死が親族に伝えられていないケースも多く、死亡補償の支払いや入隊条件として提示された約束の報酬が踏み倒されている場合も少なくないという。
「加えて、前線に出ている兵士の報酬がそれぞれのケースによって異なっているため、額が多い少ないを巡ってトラブルが頻発しているとの情報もある。そんな兵士たちの士気が高まるはずもなく、戦場に送られたものの、嫌気がさしてウクライナ側の捕虜になったり、脱走したりする兵士が増えていると言われます」(同)
入隊すれば上限はあれど借金は棒引き…。生きて帰れば大儲けだが、うまい話には必ず裏がある。ともあれ、今のロシアが抱える切羽詰まった状況を如実に物語る法律制定になったようだ。
(灯倫太郎)