・ラムネ温泉(大丸旅館別館)、七里田温泉下ん湯 / 長湯温泉・大分
後藤康彰さん的ポイント「日本では珍しい炭素泉の代表格として、長湯温泉もあげておきたいですね。ラムネ温泉の露天風呂、七里田温泉の下ん湯など多量の炭酸が溶け込んでいる浴槽では、湯に浸かるとみるみる全身がシャンパンのような泡に包まれていきます。
私のひそかな楽しみ方は、数分で全身が泡まみれになった状態で、一気に泡を拭い去ること。シュワシュワと音を立てながら泡が浮かんでくるのを眺めるのは大人も子供も楽しいはず。
ぬるいのにカラダがポカポカあたたまってくるのは、炭酸が血流を改善する作用です。家庭にも普及している炭酸系の入浴剤や、スーパー銭湯で大人気の人工炭酸泉は、長湯温泉がモデルとなって開発された経緯があります。
『飲んで効き 長湯して利く長湯のお湯は 心臓胃腸に血の薬』と詠まれる通り、飲泉できる施設も多いのが特徴です。療養泉としての遊離二酸化炭素泉の定義は1㎏中に1000mg以上。長湯温泉には重炭酸が多く含まれる炭酸水素塩泉が多いのも特徴です 」
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・薬師湯 / 温泉津温泉・島根
後藤康彰さん的ポイント「薬師湯オーナーの内藤陽子さんは、千と千尋の神隠し以来、“湯婆婆”として笑顔とおもてなしの精神で温泉ファンを迎えてくれる温泉津温泉のシンボル的存在です。浴室には小判型の浴槽が鎮座していて、地下2~3に湧出して、鯰の形の湯口から注ぎ込まれる源泉はまさに産まれたてで鮮度抜群。じわじわと沁みいるような印象です。
浴室全体に溶岩の流れのように付着する湯の花が描く模様は、神秘的ですらあります。全長800mの『うねるような』と表現される町並みは、江戸時代の町割りがそのまま残されていて、大正時代あたりにタイムスリップした感覚を呼び起こします。
国の重要伝統的建築物群(町並み保存)、石見銀山遺跡とその文化的景観の一部として世界遺産に指定されているのもうなずけます」
・地獄温泉青風荘 / 地獄温泉・熊本南阿蘇
後藤康彰さん的ポイント「南阿蘇を熊本地震と豪雨・土石流が襲ったのは2016年。壊滅的被害を受けた地獄温泉にあって、足元湧出の混浴露天風呂・すずめの湯はかろうじて被害を免れました。2019年に日帰り入浴、2020年には宿泊部門も再開を遂げています。
オーナーの河津さん3兄弟は、復興に際し湯治の原点に立ち返り、老若男女誰もが平等に楽しめるよう“地獄湯治の掟(令和版)”を定めています。
『湯が湧くところに人々は集まりそこではみな平等である。守ればみな入浴可、守れないもの入浴おあずけ』すずめの湯は着衣入浴形式に混浴変更。足元湧出の酸性硫黄泉の横には冷泉も新たに設置して、温冷交替浴を楽しむこともできます」
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・鉄輪蒸し湯 / 鉄輪温泉・大分別府
後藤康彰さん的ポイント「別府には全国の源泉の10分の1にあたる約3000の源泉がありますが、鉄輪エリアはずぬけて湯けむりが立ち上る温泉情緒が抜群な湯治エリアです。ぜひ試していただきたいのは鉄輪蒸し湯。
温泉で蒸されたセキショウを敷き詰めた石室に横たわる、いわば和式の蒸気サウナで、1セット8分の間に、蒸気と香りでスッキリできること請け合いです。温泉蒸気の地獄窯で食材を蒸しあげる『地獄蒸し』も鉄輪名物で、カラダの内側からもきれいになれるかもしれません」
──以上、国内外2000湯以上を巡ったマニアの印象に残った良い温泉9選であった。湯ざわりや成分だけではなく、街や人、食の話に至るまでそこに行く意味を考えさせられた。温泉に行く理由って温泉だけが目的じゃないのかもしれない。
気づけばすっかり冬。芯まで冷える寒さの今こそ、温泉に行ってその魅力を存分に感じたい。いや~、温泉の季節ですな。びばのんのん。
執筆:中澤星児
温泉画像提供:後藤康彰
Photo:Rocketnews24.