史上稀にみる“超スロー”ペースでの決着。日本の総大将ドウデュースが異次元の末脚を炸裂【ジャパンカップ】

 海外の強豪3頭を迎えて行なわれたジャパンカップ(GⅠ、東京・芝2400m)は、単勝1番人気に推されたドウデュース(牡5歳/栗東・友道康夫厩舎)が後方から追い込んで快勝。秋の天皇賞(GⅠ)に次いで、秋の中長距離三冠レースのうち2連勝を飾った。

 2着には、逃げ・先行策から粘った8番人気のシンエンペラー(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)と、7番人気のドゥレッツァ(牡4歳/美浦・尾関知人厩舎)の2頭が同着で入賞。中団から進んだ2番人気のチェルヴィニア(牝3歳/美浦・木村哲也厩舎)と3番人気のジャスティンパレス(牡5歳/栗東・杉山晴紀厩舎)はラストスパートで伸び負けして、それぞれ4着、5着に敗れた。

 注目された海外馬は、フランス調教のゴリアット(セン4歳/F.グラファール厩舎)が6着、アイルランド調教のディープインパクト産駒オーギュストロダン(牡4歳/A.オブライエン厩舎)が8着、ドイツ調教のファンタスティックムーン(牡4歳/S.シュタインベルク厩舎)は11着に敗れた。
  44回目を迎えたジャパンカップは異常なレースになった。「逃げ馬不在」と言われた戦前の読み通り、レース史上稀にみる遅さで展開したのだ。

 1頭を除いては五分のスタートを切ったものの、しばらくはお互いの出方を探り合う様子が続いたが、「ほかの馬が行かなかったらハナへ行くつもりだった」(坂井瑠星騎手)というシンエンペラーが先頭に立ち、2番手には予想外にソールオリエンス(牡4歳/美浦・手塚貴久厩舎)が収まる。

 以後、3番手にダノンベルーガ(牡5歳/美浦・堀宣行厩舎)が進出し、そこへチェルヴィニアが出ていくと、彼女の外からフタをするようにスターズオンアース(牝5歳/美浦・高柳瑞樹厩舎)が進出。ジャスティンパレスとオーギュストロダンは中団の7番手を進み、ゴリアットはその後ろの9番手、スタートダッシュが鈍かったファンタスティックムーンは後方の11番手。そして日本の大将格となるドウデュースは、さらにその後ろの13番手からレースを進めた。 そして1000mの通過ラップは、なんと1分02秒2という超スロー。本レースの直近10年でもっとも遅いペースになった。そのため馬群の10馬身程度の長さに収まり、後方に位置したドウデュースでも先頭からそれほどの差がなく、まさに一団の呼び名が相応しい流れになった。

 こうした超スローペースを察して、ウィリアム・ビュイック騎乗のドゥレッツァが中団からぐいぐいと位置を押し上げて先頭を奪う。すると第3コーナー過ぎから、ドウデュースが馬群の外を通って馬なりでまくって進出。最終コーナーを回るときには7番手までポジションを上げていた。

 府中の長い直線。先頭のドゥレッツァが後続を突き放しにかかり、インからシンエンペラーが追いすがるが、坂下から桁違いの末脚を繰り出したのはドウデュース。馬体を併せてきたチェルヴィニアを競り落とし、ドゥレッツァとの叩き合いに持ち込み、それも制して半馬身ほど前に出る。ドゥレッツァは粘り、シンエンペラーは二の脚を使って追いすがる。3頭が一段となってゴールへ飛び込んだが、ドウデュースは最後まで先頭を譲らず、堂々と栄冠に輝いた。粘りに粘ったシンエンペラーとドゥレッツァはクビ差で2着同着となった。
  1000m通過が1分02秒2、決勝タイムが2分25秒5というと、これはスーパーGⅠと呼ばれるジャパンカップとして、著しく凡庸な時計。ちなみに、前日に行なわれた同距離の3歳以上1勝クラスでの走破時計は2分24秒7と、本レースより0秒8も速い。日曜は本馬場に相当な量の散水があり、外ラチ沿いで撮影するカメラマンから「朝一番はパンツの膝から下が、ぐっしょり濡れるほどだった」と聞いているが、それにしてもGⅠに相応しくないほどの超スローであった誹りは免れまい。

 結局、前へ行った2頭を、早めに動いたドウデュースが差し切ったというのがこのレースの図式となったのだが、上位3頭がレースの流れを読み切って自身が乗る馬のストロングポイントを生かし切ったわけで、3騎手の好騎乗は称えられるべきだろう。

 なかでも、やはり驚かされたのはドウデュースの武豊騎手の騎乗ぶりだ。向正面、第3コーナーまでは手綱を引いてギリギリで折り合いを付けながら進み、コーナーを曲がりながら手綱を緩めて馬なりで上昇。そして、超スローで前残りの競馬になっていることを察してだろう、通常なら早仕掛けと言われるタイミングで仕掛けて直線坂上で先頭に立つと、追いすがる2頭を退けて戴冠を果たした。

 鞍上の意のままに動き、走り切ったドウデュースの能力の高さ(今回も上がり3ハロン32秒7は断トツの1位)はもちろんだが、いくつもの局面で最適な判断を降しながらゴールまで相棒をエスコートしたヘッドワークとテクニックは、「リヴィング・レジェンド」の呼び名に相応しいものだった。 それに対して残念だったのは、4着チェルヴィニアのクリストフ・ルメール騎手と、5着だったジャスティンパレスのクリスチャン・デムーロ騎手の積極性を欠いた騎乗である。

 チェルヴィニアは3番手に付けながら、外からフタをされていたとはいえ、徐々に位置を下げて直線を向き、あっという間にドウデュースに交わされてしまった。真っ向勝負と言えば聞こえはいいが、現役随一の切れ味を持つ天皇賞馬を抑え込むなら、逃げる選択もあっただろうし、少なくとも直線ですぐさま仕掛けるぐらいの動きは必要だったはず。馬の出来は素晴らしく、能力の高さも疑いないだけにとてももったいないレースだった。

 ジャスティンパレスも、ドウデュースが来てから追い出したのでは、やはり敵う相手ではない。名手クリスチャン・デムーロ騎手への乗り替わりではあったが、今回はそれが裏目に出たと言えるのではないか。もっとも前走手綱をとった坂井瑠星騎手は自厩舎のシンエンペラーに乗ることが決まっていたわけだが…。
  最後に、鳴り物入りで来日した海外馬についても触れておくと、たとえばハイペースでのスタミナ比べという展開ならばまだしも、極端なスローペースで、レースの上がり3ハロンが33秒4というような究極の末脚勝負となると、ゴリアットが6着、オーギュストロダンが8着、ファンタスティックムーンが11着という結果もやむを得まい。ちなみに3頭とも33秒台で上がっている。欧州を主戦に置くサラブレッドがアウェイの日本で戦う難しさを考慮したとしても、今回はいかにもツキが無かった。

 ドウデュースはこれで秋の中長距離GⅠを2連勝。次走に予定されている有馬記念(12月22日)を制して3連勝とすれば、2000年のテイエムオペラオー、2004年のゼンノロブロイ以来、史上3頭目の栄誉となる(ボーナス2億円も与えられる)。引退レースで快挙はなるのかどうか、その盛り上がりが今から楽しみなドウデュースの会心勝利だった。

文●三好達彦

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