「佐々木朗希は中4日のローテを守れるのか」広岡達朗の持論「体力のない投手はメジャーでは通用しない」NPBがメジャーのマイナーリーグ化することへの警鐘

年俸バブルで自分の力を過信するな

イチロー(マリナーズ)に始まって松坂大輔(レッドソックス)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)、田中将大(ヤンキース)、前田健太(ドジャース)、大谷(エンゼルス)に続き、2021年には鈴木誠也(カブス)、2022年には吉田正尚(レッドソックス)、そして2023年には山本(ドジャース)と今永昇太(カブス)が海を渡った。

これで2000年以降、ポスティングシステムで日本球界から大リーグに移籍した選手は計9人。このあとを追うように、2023年末には楽天の左腕・松井裕樹も海外FA権を使って5年総額39億2000万円でパドレスに入団した。

あらためて言うまでもなく、いずれも日本プロ野球でそうそうたる実績を残している看板選手だが、最近の移籍にあたって、大リーグのFAやトレードの天文学的年俸バブルは異常としか言いようがない。そしてこのバブルは、日本を脱出する選手たちの契約条件にそのまま反映されている。

たしかにDeNAの左腕・今永は最近力をつけて成長している実力者で、前年は7勝4敗の防御率2.80で最多奪三振のタイトルもとった。しかし日本での最終年俸は1億4000万円。それがカブスでは4年総額78億4000万円、年俸19億6000万円だという。

また、高卒11年目で29歳の松井は、楽天で年俸2億5000万円だったのが、海外FAでパドレス入りして7億8000万円になった。

そして最後に驚いたのは、2024年2月、メジャーリーグ公式サイトが伝えた藤浪晋太郎投手のメッツ入団のニュースだった。

AP通信によると、オリオールズからFAになっていた藤浪の契約は年俸335万ドル(約5億円)の1年契約で、登板数に応じて最大85万ドルの出来高がつき、35試合で10万ドル、40、55、60試合に達したら25万ドルずつ上積みされるという。

藤浪は2023年、阪神からポスティングシステムでアスレチックスに移籍し、160キロ超の速球で先発として開幕を迎えたが、阪神時代から課題だった制球難で不振が続き、7月にはオリオールズにトレードされた。

両チームで計64試合に登板したが、7勝8敗、防御率7.18だった。阪神で4900万円の投手が、なぜ年俸5億円で評価されるのか。

案の定、藤浪は2024年7月、メジャーやマイナーチーム4球団を渡り歩いた末に戦力外になった。日本一の速球に魅了された大リーグも、あまりの制球難に愛想をつかせたのだ。

(広告の後にも続きます)

日本はメジャーを支えるマイナーリーグになった

選手の立場になれば、アメリカはおいしい職場である。私も生涯プロ野球一筋で、サラリーマンの経験はない。現役時代の短いプロ野球選手が引退後の長い余生を考えれば、少しでもいい条件の球団に移りたいのはよくわかる。

マスコミでは「いまよりもっと成長させてくれる舞台」とか、「世界一の野球に挑戦してみたい」とかいう選手の夢や希望の言葉があふれている。しかし、こんなきれいごとだけが大リーグを目指す動機だろうか。その本音に、大リーグの球団が提示する日本とはケタ外れの複数年・高額条件の魅力がないとはいえないだろう。

まして「10年総額1015億円」のほとんどが「10年契約終了後の後払い」という大谷とドジャースの仰天契約が象徴するプロ野球の日米格差が、引退後の野球年金もない日本人選手の夢をかき立てていないはずがない。

だが、ドルで頬をひっぱたかれて人気選手を次々に引き抜かれる日本の野球はどうなるのか。たしかにカネは大事だが、取引は選手も日本の野球界も、どちらも平等で幸せにならなければおかしいだろう。

選手のためにはいい条件でも、常に日本野球の将来を考えてきた私の立場から言えば、毎年日本の優秀な選手がポスティングでメジャーに引き抜かれる現状にはがまんができない。いまに始まったことではないが、これでは日本のプロ野球はどうなるのか。球界を代表するような優秀な選手が毎年、高額の条件で渡米するようでは、日本のプロ野球はアメリカのマイナーリーグ、3Aになってしまうだろう。

いや、もうすでにそうなっている。