ハンジ・フリックは規律に厳しい監督だ。ミーティングに遅刻したことを理由に、ジュル・クンデをアラベス戦のスタメンから外した。同じ理由で、エクトル・フォントに警告し、フレンキー・デヨングに注意した後の出来事だった。練習中は厳しさを前面に押し出し、セッションが2時間を超えることも少なくない。
その一方で、ユーモラスさも持ち合わせている。「彼の真面目なイメージを壊したくはないけれど、そうした面も持っている」とダニ・オルモは明かす。
ドレッシングルームの管理は、ラフィーニャ、イニゴ・マルティネスら新リーダーに託しているのも硬軟両面を持ち合わせるフリック流の特徴の1つだ。ロベルト・レバンドフスキとイルカイ・ギュンドアン(現マンチェスター・シティ)が“自称”リーダーとして振る舞っていた昨シーズンや、チーム内ではアンタッチャブル、他の選手にとっては憧れの遠い存在の域を抜けなかったリオネル・メッシやルイス・スアレスらが君臨した時代とは大違いだ。
レバンドフスキはバルサに加入して以来、おそらくかつてないほどにピッチ上で力強さを見せている。しかし、ロッカールームでは一転して慎ましくなり、チームメイトを責めることをしなくなった。ラミネ・ヤマルに対して見せていた不機嫌な態度も完全に過去のものだ。
自説を曲げない頑固なギュンドアンは、たびたび騒動の震源地となった。パリ・サンジェルマンに敗れて大会から姿を消したチャンピオンズリーグ準々決勝・第2レグ後、自身の一発退場に繋がったプレーを咎められたロナルド・アラウホは、「僕は自分の考えを胸にしまっておく。チーム内には遵守すべき規範がある」と不満を漏らした。
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そのチーム内でのリーダー交代の恩恵を受けている1人がヤマルだ。お目付け役を買って出ているラフィーニャはヤマルに首ったけで、「僕にとっては自分の子供のような存在だ」とまで言い切る。
そのヤマルを筆頭に、アンス・ファティ、アレハンドロ・バルデ、パウ・クバルシ、マルク・カサド、パウ・ビクトル、パブロ・トーレ、フェルミン・ロペス、Bチームとトップチームを行き来するいとこ同士のトニ&ギジェ・フェルナンデスといったヤングパワーは、ドレッシングルームでも急激に勢力を伸ばしている。
「学校と一緒だ。音楽の趣味も合うしね。今DJはラミネが担当している。ただ最近ちょっとパフォーマンスが低下気味だから、交代してもらわなくてはいけない」とバルデは冗談めかすが、ラップ好きのヤマルに流す曲をリクエストすることもある。
彼らと同世代ながら、ペドリ、フェラン・トーレス、エリク・ガルシア、イニャキ・ペーニャ、ダニ・オルモ、アラウホからなるグループの一員として行動することが多いガビもまたドレッシングルームにおけるDJ役の1人だ。彼の好みは、マイケル・ジャクソン、クイーン、ポリスなどの1980年代のヒット曲。またヤマルのお目付け役がラフィーニャなら、ガビのそれはI・マルティネスだ。
昨年11月、ガビがスペイン代表戦で右膝の前十字靭帯断裂の怪我を負った夜、試合が行われたバジャドリーからマドリードまで車で同行したのは、I・マルティネスだった。彼とラフィーニャは、若手とマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン、レバンドフスキ、クンデ、デ・ヨング、アンドレス・クリステンセン、そして先月加入したヴォイチェフ・シュチェスニーといったベテラン・中堅の外国人選手の橋渡し役も担っている。
I・マルティネスとラフィーニャがバルサで見せているリーダーシップは、「基本的に放任主義だ。でも必要な場面では、戒めの言葉をかけることもある」とスペインサッカー連盟の関係者が語るロドリ(マンチェスター・シティ)とアルバロ・モラタ(ミラン)のスペイン代表におけるそれを想起させる。
モラタとロドリに若手のお目付け役を託したルイス・デ・ラ・フエンテ監督の決断は功を奏し、スペインはEUROを制覇した。
レバンドフスキがフリックに手なずけられ、ラフィーニャとイニゴ・マルティネスが放任する中、ヤマルはピッチで躍動し、ドレッシングルームでDJ役を担う。誰もが不平不満を言わない。誰もが祝福する。 “ウィン・ウィン”の空気がバルサのドレッシングルームを支配している。
文●ファン・I・イリゴエン(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸
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