「ボールを自分たちのものにする」――。これからのサッカーの在り方を問う名将対決【コラム】

「ボールを自分たちのものにする」

 それはサッカーの原則の一つだろう。ボールを持っていない方が、それを奪い返した瞬間に有利になるトランジション戦術は流行とは言え、ボールを運べないチームは話にならない。サッカーはボールプレーが基本で、そこにフォーカスできない指導者やチームは、遅かれ早かれノッキングするはずだ。

 その点、昨シーズンのヨーロッパリーグ(EL)の決勝、アタランタ対レバークーゼンは、一つの手本のようだった。“ポゼッションか、カウンターか”、“つなげるか、縦に速くか”、そうした二者択一の小さな枠では収まらない。

 自分たちがボールを持って攻め込み、失ったら奪い返し、さらに失っても挑みかかり、ボールを巡る応酬の中に真実を見出すというのか。

 立ち上がり、アタランタの先制点は象徴的だった。CKのキックを跳ね返されても、さらにゴール前に送り、それを退けられても、右サイドで幅を取ると、インサイドを走ったザッパコスタが駆け上がり、大外へクロス。これをルックマンが一歩先に出て合わせ、ゴールネットを揺らした。

 数秒の間の応酬で、決着がついたのだ。

 アタランタはこれで自信を得て、プレーに確信が増した。マンマーキングがはまり、まずはファーストプレスのところで思うようにやらせていない。前半半ばにはレバークーゼンのミスを誘い、バックパスを拾う形になったルックマンがドリブルで持ち込み、カットインから豪快にゴールを叩き込んだ。
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 一方、レバークーゼンは後半になって、攻めの強度を増したが、結局、追加点を浴びて万事休すだった。

「アタランタは我々よりも良かった。我々はやりたいプレーができず、先制点を失った後、アタランタはエネルギーが増した。マンマーキングに対する準備はしてきたが、彼らをやり込めることができなかった」

 レバークーゼンを率いるシャビ・アロンソ監督は振り返ったが、勝ち切るつもりだったのだろう。42歳の若き名将で、すでに無敗でのブンデスリーガ優勝を成し遂げている。選手時代はあらゆるタイトルを取っており、“常勝監督”となるか。

 かたや、アタランタのガスペリーニ監督は、チームを率いて8年目。マンツーマンの守備から果敢に攻撃を仕掛けるスタイルが一つ実った。66歳、個人としては初の戴冠だ。

「ボールを自分たちのものにする」

 世代を超えて、その精神の対決は見応え十分だった。

 日本サッカーも含めて、これからのサッカーの在り方を問うものだったと言える。相手の嫌がるプレーをし続け、勝ちを拾う。それは一つの勝利の方法論ではあるし、効率が良いかもしれないが、それだけだとサッカーは魅力を失うことになるはずだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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