〈年収激減〉フードデリバリー配達員が稼げる時代は終焉? 出前館とUber EATSに見る国内市場の限界

今期の出前館の決算は衝撃を持って迎えられた。オーダー数、流通取引総額、アクティブユーザー数ともに減少し、2024年8月期は2%の減収だったのだ。そこに見え隠れするのはフードデリバリー市場の縮小という悪夢だ。最盛期は年間1000万円稼げると話題になった配達員だが、注文数の減少、配達エリアの縮小、報酬の減額で懐が寂しくなる未来も見えてくる。

修正した想定よりも早いスピードで出前館の利用者は減少している?

アメリカのUber Technologiesのフードデリバリー事業は好調をキープしている。

2024年7-9月のデリバリー事業における取扱高は186億6300万ドル。前年同期間比で16%増加した。

この事業の取扱高は2023年度も2割近く増えていた。特にコロナ禍以降は右肩上がりの事業なのだ。

一方、出前館の2024年8月期の売上高は前期比2.0%減の504億円。もともとは8.9%の増収を計画していたが、会社予想を下回るどころか、減収という結果に終わっている。

出前館は2024年5月22日、傘下にあった法人向けフードデリバリープラットフォーム運営会社の株式会社くるめしを譲渡することを発表。

それと同時に業績の下方修正を行い、売上高を期初予想の560億円から510億円に引き下げている。

リリースのタイトルは「持分法適用関連会社の異動(株式譲渡等)、特別利益の計上(関係会社株式売却益)及び業績予想の修正に関するお知らせ」となっており、一見するとこの会社を売却したことが売上予想の引き下げに影響しているかのような印象を受ける。

しかし、くるめしは子会社ではなく持分法適用関連会社だ。

売上高は連結業績に影響せず、持分比率に応じた利益を財務諸表に反映させるだけである。

リリースの最終ページに書かれていた「GMV が期初想定より下回る見込みのため」という言葉こそが、この会社の行く末を占う最重要のものだった。

GMVとは流通取引総額のことで、出前館というプラットフォームにおいて取引された合計金額を表す。

出前館の2024年8月期の流通取引総額は1904億円。前期よりも7.4%減少している。注文数に至っては7031万件で、9%の減少だ。

出前館は2024年5月22日に2024年8月期通期の売上高を510億円に引き下げる下方修正を行った。この期の着地は504億円だ。

想定を更に上回るスピードで流通取引総額が削られているのではないか。

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日常生活に溶け込み切れない日本のフードデリバリー

Uber Technologiesと出前館の業績の違いは、アメリカと日本でのフードデリバリーの利用状況の差によるものが大きい。

アメリカでは2018年の段階で、フードデリバリーは340億ドル(当時のレートで3.6兆円)もの市場を形成していた。

シェアトップのDoorDashがソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから5.3億ドルもの資金を調達したのが2018年3月だ。アメリカのマクドナルドがUberEatsと提携して配達を強化したのが2017年である。

アメリカでは仕事や家事に追われて時短を目的としたフードデリバリー需要が強く、市場の大幅な伸長が見込まれていた。消費者の止むに止まれぬ利用動向があったわけだ。

一方、日本では事情がやや異なる。

食に関連する情報提供を行う「食の窓口」のフードデリバリーに関する消費者調査(「食の窓口が「出前・デリバリーサービスに関するアンケート調査」を実施」)によると、利用する理由のトップは「料理をするのが面倒な時」で38.6%。「特定の料理が食べたい時」が32.0%と続く。「忙しくて料理をする時間がない時」は24.9%と低い。

マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した調査(「宅配に関する調査(2022年)フードデリバリー編」)では、デリバリーで注文した料理のトップはピザで57%を獲得している。2位のお弁当は29%。3位の寿司が27%だ。

ピザは子供を持つ家庭から友人同士のパーティー、一人暮らしの学生や社会人まで、利用シーンの幅広さが特徴だ。「料理をするのが面倒」という消費者のニーズを満たすのにぴったりの料理だと言える。

しかも日本にはピザを手作りするという習慣がないため、「特定の料理が食べたい」という利用動向にも当てはまりやすい。

ただし、宅配ピザの平均単価はMサイズで2500円ほど。高額なために利用頻度は決して高くはない。高額なのは3位の寿司も同じである。

つまり、日常的にフードデリバリーを利用するという意識が低いのだ。 

アメリカもピザの宅配は人気があるが、ハンバーガーやタコスなど日常食での利用が中心だ。

Uber Eatsで最も注文が多い商品は、フライドポテト、ガーリックナン、パッタイ(タイ風焼きそば)など、軽食が多い(「The 2023 Uber Eats Cravings Report」)。

つまり、アメリカはフードデリバリーが日常に溶け込んでいるために市場拡大が望めるが、日本はコロナ禍という外出制限がなされた異常事態で市場が一時的に伸びただけであり、経済活動の再開とともに市場は縮小へと向かうのではないかと予想できるのだ。

その様子は、インターネット上での検索需要を調査するGoogleトレンドにも見てとれる。