偏差値28から慶應大に合格のギャルが、34歳で米コロンビア大学院をオールA卒業できたワケ。

累計120万部のベストセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の主人公、“ビリギャル”のモデルとなった小林さやかさん。ビリギャル本人として、学生や親に向けた教育にまつわる講演をする中で、さまざまな人から「さやかちゃんは、もともと頭が良かったんだよ」「うちの子にはできない」と何度も言われたそうです。

そんな世間の声から、「子どもの可能性に蓋をする社会を変えたい」と一念発起し、34歳で米コロンビア大学院への留学を決意。新著『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)の中でも、正しい努力の方法と応援者のいる環境の必要性を訴えています。

2年間の留学を終えて日本に帰国したさやかさんに、留学を通して学んだことを聞いてみると、そこには「幸せ」になるためのヒントが隠されていました。

ビリギャル、なぜ留学に行こうと思ったのか

──コロンビア大学院をご卒業されたさやかさん。改めて、留学理由を教えてください。

「新しいことを学ぶって楽しいんだ!何でも挑戦することができるんだ!」と実感できる教育を子どもたちが受けられるようにするためには、日本の学習観を変えないといけない。そう思ったのがきっかけです。

7年間で500回以上の講演を重ねる中で、「さやかちゃんは、もともと頭が良かったんだよ」とたくさん言われました。でも、私が受験に成功したのは、自分の可能性を信じてくれて「自分にもできるかもしれない」と思わせてくれた母親や、塾で出会った坪田信貴先生のような大人に出会えたからだと思っているんです。

人はいかに学び、賢くなるのかを科学的に捉える文化が根付いたら、教育は正しい方向に変わっていくはず。そう信じて、教育心理学・認知科学の分野を学ぶために留学を決めました。

──34歳で留学を決意するのは、きっと勇気のいることだったかと思います。

そうですね。でも、受験の時のような大きな挑戦をもう一度したかったという気持ちもありました。たかが受験ですが、1日15時間勉強をし続けて努力をした身としては、結構大きな山を登ったと思っているんですよ。一方で、講演をしながら「私、偉そうに喋っているけれど、あれ以来大きな挑戦ができていないんだよな」という想いがずっとありました。留学が決まったときは安心しましたね。「また挑戦できるんだ!」と思ったら、ぽっかり空いていた心の穴が埋まったような気がしたんです。

幸せには2種類あると言われています。一つは“ヘドニックウェルビーイング”と呼ばれる、ポジティブな感情で満たされた心地よい幸せのことです。まさに、ビリギャルとして講演をしていた当時の私は、どこに行っても温かく迎えられて、話を聞いてもらえて、さらにお金ももらえるという状態。まさに、ヘドニック・ウェルビーイングは満たされていたんです。

でも、どこかでモヤモヤしていたのは、もう一つの“ユーダイモニックウェルビーイング”が足りなかったからだと思います。これは、何かを成し遂げたり、頑張ったりしたあとに得られる自己実現が満たされた、達成感のような幸せです。この2つが揃わないと人は幸福を実感しないと言われています。端的に言えば、私は挑戦に飢えている状態だったんです。

──幸せなはずなのに満たされない。その想いは少し分かるような気がします。

友人や家族にも恵まれて、あたたかいお家もあって、食べるのに苦労もしてないのに、この気持ちはなんだろう……と思う人は少なくないと思います。そんな人は、新しいことに挑戦してみたり、自分の能力を発揮できたりする機会を貪欲に求めてもいいんじゃないかと思いますね。

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「いい勘違い」をしたからビリギャルは生まれた

──実際に2年間留学をしてみて、どんな発見がありましたか?

毎日がチャレンジの連続でした。言語も文化も分からない中で、「全然喋れなかったな」「こんなこともできないなんて恥ずかしい」と傷つくこともいっぱいあるけど、そのぶんちょっとした成長が本当にうれしいんです。赤ちゃんに戻ったような気持ち(笑)。

もう、私は何も怖くないなと思いましたね。どんどん強くなって、それが自信になっていくのを実感しました。「今の私、めっちゃ好きだな」と思えるようになった2年間でしたね。

──大学院では認知科学を勉強されていましたね。学ばれたこともぜひ教えてください。

認知科学を通じて、「私は“いい勘違い”をしたから、慶応に入れたんだ」という確信を得ました。

もちろん、遺伝は大きな要因です。当たり前じゃないですか、うちらはDNAでできているんだから!(笑)でも、それが100%ではなくて、持って生まれた遺伝子が環境一つひとつにどう反応して何を生み出すかが大事なのだと学びました。その中で、キーワードとなってくるのがマインドセット。自分が「できない」と思ったら、本当に能力が伸びづらくなる。自分がどう捉えるかによって行動が変わり、結果が変わってくるんです。


さやかさんの新著『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)

たとえば、「努力したって無駄なんだ」とネガティブな思い込みをすれば、エンジンはかからない。でも、その中でも親や学校、社会からの重圧はあるから、無理矢理グイグイ押されて仕方なく動いているイメージです。一方で、「自分はできる!」と信じれば、エンジンがかかって、自発的に速く走れるようになります。それでいくと、私は受験期、すごくいい勘違いができていたんだなぁ、と。

──いい勘違い?

この前、イベントでモチベーションの正体について私が語っていたら、後日坪田先生がニヤニヤしながら、「君ね、最近留学してコメントが賢くなってきたけど、君が慶応に入れたのはただアホだっただけだからな」って言われたの(笑)。アホすぎて、慶応がどれだけ難しいかもよくわかってなくて、「私なら行ける気がする!」とポジティブな勘違いが出来た。勉強はさっぱりだけど、自己効力感だけは高かったんですよね。

──マインドセットが大きな勝因だったんですね。その中で、大多数の人が“いい勘違い”ができていないのはなぜなんでしょうか?

世間的に言う「頑張る」は、“耐え忍ぶ“みたいなニュアンスがあると思っています。やりたくもないことを無理矢理やらされているような。でも、「みんながやってるから」「有利だから」と何かに「なんとなく」取り組むのは、モチベーションが欠けている状態です。

モチベーション理論では、本人が「やりたい」という想いが強い状態で、かつ自分の能力に合ったことをやるのが、1番モチベーションが上がると言われています。

でも、現状はやりたくもない難しいことをずっとやらされて、結果的に「なんでそんなこともできないんだ」と言われ、それでも頑張れる人が賞賛される世の中です。自分が「やりたい」とも「やれる」とも思えていないんだから、できなくて当たり前なのに、それで自信を失くしている人たちがたくさんいるんですよ。

学歴も資格も大企業の肩書きも、幸せになるための切符ではない。それはもう、みんな分かっているはずなのにね。