J2最終節、ギラヴァンツ北九州は後半アディショナルタイムの勝ち越しゴールで、Y.S.C.C.横浜を3-2で下した。本来なら、有終の美と表現していい締めくくりである。
しかし、劇的な勝利にも北九州の選手たちに笑顔はなかった。今季加入し、背番号10を託された永井龍は、試合終了のホイッスルと同時にピッチに座り込み、両手で顔を覆っていた。
「まだ昇格できるチームじゃなかった」
チーム最多、J3得点ランク4位となる14ゴールを記録したエースストライカーは試合後、悔しそうにつぶやいた。
今季の北九州は、シーズン序盤こそなかなか勝点を伸ばせず、二桁順位にとどまっていたが、第13~25節で13試合連続無敗(9勝4分)を記録。これをきっかけにJ2昇格プレーオフ進出圏内をキープし、順位を最高で4位まで上げていた。
ところが、第32節以降は試合終盤の失点を重ね、勝点を取りこぼしてしまう。結局、北九州は6位とわずか勝点2差の7位に終わり、J2昇格を逃したのである。
「我々は(Jクラブ全体で昨季の順位が)60位からスタートするなかで、自信を持たせる一番簡単な方法は勝つことだったが、(シーズンが進み)勝ってきた、負けなくなってきたという時に、ちょっと我々が目ざしていたスタイルからズレてきた。
でも、勝っているし、僕がそこで手を加えて変な方向に行くより、選手に委ねて自分たちで作った形を昇華させていく方がいいと、その時は思ったが…」
悔しいシーズンをそう言って振り返るのは、北九州の増本浩平監督である。指揮官が続ける。
「その後、ちょっと崩れだした時に、修正が利かない状況になってしまった。13 試合負けなしの時はセットプレーやPKでけっこう淡泊に点が取れちゃっていたが、もしかしたら、その時にもっと僕がやれることがあったのかなと思う。悪い言い方をすれば、ブレた。僕は元々、サッカーは選手がやるもので、僕がさせるものじゃないと思っているので、僕の中で考え方としてブレてはいないが、ただ『もうちょっとあそこで…(やれることがあったのではないか)』というのは実際ある」
とはいえ、昨季J3で最下位に沈んだ北九州は、本来ならJFL降格。今季をJ3で戦うことはなかったはずだった。
ところが、JFLにJ3昇格条件を満たすクラブがなかったことで命拾い。そんな状況に陥っていたことを思えば、今季の逆襲劇は十分に称えられるべきものだろう。
【画像】サポーターが創り出す圧巻の光景で選手を後押し!Jリーグコレオグラフィー特集!
「選手は(シーズンはじめから)間違いなく昇格を目ざしてやってはいたと思う。でも、ただ昇格したいのと、実績がともなって昇格したいのは全然違う。たぶん半信半疑のところはあったと思う」
そう語る増本監督がターニングポイントとして挙げたのが、4月21日のヴァンラーレ八戸戦だ。
「北九州から八戸まで応援に来てくれた方が何人かいらっしゃって、躍動感もない、運動量も少ない、みたいな試合をしてしまった時に、けっこう本気でブーイングしていただいた。その思いをしっかり受け止めようとミーティングのなかで伝えた時から、覚悟がだんだん決まってきた。
リーグが進んでいくなかで、選手たちはさらに強く(昇格したい)気持ちを持ったと思うし。永井、喜山(康平)、大谷(幸輝)とか、いろんなことを経験してきた選手が発信したものを若い選手がキャッチして、本当に覚悟を決めたところはあるんじゃないかと思う」
そして増本監督は、目標の6位以内に届かなかったことについて「自分の経験のなさ」と自責の念にかられる一方で、選手たちに“ブレたチームの解決策”を委ねたからこそ、彼らが逞しくなったとも感じている。
「(最終節で勝利し)選手たちが持っているものを最大限に出せるようになったのは、ある程度委ねて、任せて、選手と話しながら(チームを)作っていけた結果かなと思う」
60位からの逆襲劇。この続きはまた来季、である。
取材・文●浅田真樹(スポーツライター)
【画像】ゲームを華やかに彩るJクラブ“チアリーダー”を一挙紹介!
【画像】小野伸二や中村憲剛らレジェンドたちが選定した「J歴代ベスト11」を一挙公開!
【記事】「大谷翔平って何であんなに凄いの?」中村俊輔の素朴な疑問。指導者としてスーパースター育成にも思考を巡らせる