自分への約束を叶えた2019年
「Spur(シュプール)秋田マウンテンガイドサービス」始動
専門学校を卒業した2019年の春に、ガイドカンパニー「Spur(シュプール)秋田マウンテンガイドサービス」を立ち上げ、夏は旅行会社から委託される登山ガイドとして、冬は他社の助っ人BCガイドとして働き始めた。
「経済的にぜんぜん独り立ちできなくて、しばらく実家から出られませんでした。年間スケジュールが埋まって、親に頼らず一人暮らしができたのは、3年目くらいからですね。冬は今でもぜんぜん。なんなら自分のために滑っているの? と思うときもあるくらい(笑)」
オンシーズンは、由利本荘市の実家と、田沢湖の借家の2拠点でB Cガイドツアーを主催している。
「ホームマウンテンの鳥海山の厳冬期は、アプローチが長くて、気象も厳しいので、お客さんは連れて行けません。鳥海山ツアーは、麓までの車道が除雪されたあとの4、5月の春限定です。厳冬の鳥海山はプライベートで、トレーニングを兼ねて登って滑ります。めっちゃ大変だけど、雪はめっちゃいい(笑)」
4月までの厳冬期は、田沢湖を拠点にして、田沢湖、森吉山、八幡平の3つのエリアでガイディングする。
「雪の降り方、風向きを見極めて、横移動する感じです。例えば、平均的に雪が降れば、森吉山や秋田駒ケ岳。西高東低がガッツリハマっちゃうと、日本海側が降りすぎちゃうから、岩手側の雪がマイルドで乾いていたりする。逆に南岸低気圧だと、太平洋側が降るから日本海側の森吉山へ行ったりします」
降ったエリアを外す。なんとも贅沢なツアーだ。雪の降り方を見て、東西に動けるのは、雪深い東北ならではのプランである。
「秋田って交通の便がめちゃめちゃ悪いところで、まだ雪山はそんなに知られていません。来るお客さん、来るお客さん、必ず「秋田にこんなところあったの?」って驚かれるくらい。あと、山がそんなに大きくなく、急な斜面も少ないから、ガツガツ滑りたい人にとっては、魅力がない山域かもしれません。
オープンな広いバーンは天気が安定した稀な日に、標高を上げないと滑れない。秋田は晴天率が低いからどうしてもブナ林のツリーランが多くなっちゃう。だから、そんなにたくさんの人が来るエリアじゃない。自分の存在がそんなに知られていなく、まだアピールできていないというのもありますが」
(広告の後にも続きます)
秋田の雪山は最高の舞台
秋田で生まれ育った佐藤は、東北の恵まれた環境が当たり前だと思っているのか。それとも謙虚に振る舞っているのか。秋田スノーの大ファンである私(著者:森山伸也)が佐藤に代わって熱弁しよう。
私はいま新潟に住んでいるが、秋田に住みたいと思うほど秋田に恋をしている。毎年2回厳冬と残雪に秋田へスノートリップに出かけている。スキー場は空いていて、やや内陸にあるので、雪がいい。オープンバーンなんて世界中探せばどこにでもあるが、ブナの巨木ツリーランは東北でないと味わえない。そして、どこにでも温泉が湧き、泉質が素晴らしく、入浴料が安い。日本海の幸、日本酒、秋田こまち、きりたんぽ・・・胃袋も大満足。
そして、なにより人があたたかく、おおらかだ。6月まで鳥海山や月山、秋田八幡平でたっぷりスキーができる。できることなら誰にも知られずにひっそりと楽しみたい極上スノーパラダイスである。そこを舞台にガイドしている佐藤が羨ましくもあり、彼女に先見の明があると思うのは、私だけではないだろう。
「IWATE BACKCOUNTRY GUIDESや八甲田ガイドクラブでご一緒したお客さんが、訪ねてきてくれたり、東北の中で、横のつながりが生まれてきたことが、なにより嬉しいですね。今度は、こっちの秋田から、岩手八幡平や青森八甲田へお客さんが流れていくことが目標です。こうして、東北の雪山を盛り上げて行けたらいいですね」