「俺は俺。ヤンチャじゃないと面白くない」浦和復帰の原口元気が“本来の姿”に意欲「アタッカーとしてもう1回、輝きたい」【インタビュー2】

 2014~24年の10年間のドイツ挑戦に区切りをつけ、古巣の浦和に戻ってJリーグで新たな一歩を踏み出している原口元気。

 9月の復帰直後はマチェイ・スコルジャ監督の意向やチーム事情もあってボランチに入ることが多かったが、10月30日の横浜F・マリノス戦からは、かつて主戦場としていた左ウイングで途中出場。11月10日のサンフレッチェ広島戦でゴールを奪うなど、ようやく『アタッカー原口』の新章が本格的にスタートしつつある。

「ドイツ時代の自分を振り返ると、ヘルタ(・ベルリン)の時には最前線や右サイドバックをやったし、ウニオン(・ベルリン)やシュツットガルトではインサイドハーフやボランチに入るなど、いろんなポジションに入ってきました。それは“ドイツで生き残る術”。何でもできることに特化してトレーニングしていた時期もあったし、それが自分の武器になったのは確かです。

 でも逆に、それがウイークにもなってしまったのかな…。チーム内では評価されるけど、いざ移籍となると『どれがスペシャルな部分?』と疑問符をつけられることも多かった。2022年のカタール・ワールドカップ落選もそういった部分が影響したのかなと感じます。自分の中では『オールラウンダーすら極められなかった』という悔しさもありますね。

 実際、(ジェームズ・)ミルナー(ブライトン)みたいに万能型の道を極めて、38歳になった今もプレミアリーグで出続けている選手もいる。自分がミルナーだったら、どんな監督が来ても絶対に使われていたはず。そういう意味では、万能性でさえ足りなかったのかなとも感じます」と、原口は潔く足りない部分を認めている。

 同じユーティリティタイプだった遠藤航(リバプール)は、シュツットガルトでボール奪取や1対1の守備に磨きをかけ、「デュエル王」の看板を勝ち取った。その絶対的なストロングがあったからこそ、30歳を超えてから最高峰リーグへのステップアップを実現させられた。
 
 わずか2か月ではあるが、シュツットガルトで遠藤とインサイドハーフでコンビを組んだ原口には、その意味が痛いほどよく分かるはず。同時に、自らが追い求めた道を極めた偉大な先輩に敬意を評している。

「航も凄いけど、長谷部(誠)さんはある意味、僕の理想形でした。1つのクラブに長く在籍して、30代後半までコンスタントにハイパフォーマンスを出していたわけだから。ポジションもボランチやディフェンダーといろいろ変わりましたけど、全てにおいて高いレベルでブンデスリーガに適応していた。

 僕自身も37~38歳の長谷部さんと対戦しましたけど、本当に凄かったし、誰からもリスペクトされていた。自分もあの領域を目ざしていましたけど、できなかった悔しさもありますね」

 さらに、こう続ける。

「結局、僕は10年前とは全然違う選手になってしまった。ブンデスを渡り歩くという意味では正解だったし、フレキシブルな選手になるのは1つの道だと思いますけど、本当にやりたいことをやれたのかと言われれば、そうじゃない。だからこそ、レッズでは本来の姿というか、自分がやりたかったポジションで勝負したいんです。

 これは別にわがままとかではなくて、今のチームを見ても点がなかなか取れてないし、攻撃的なプレーで助けられる部分は大いにある。そこにトライしたい気持ちがすごく強いんです。自分がそういう形で成功できたら、ドイツでの10年間の延長線上とはまた違う成功になる。

 たぶんドイツの延長線上でフレキシブルな役割に取り組んで貢献する方が簡単かもしれない。でも、僕はアタッカーとしてもう1回、輝きたい。険しい道のりというのは重々承知してますけど、そのうえで挑戦することにはすごくワクワクします」と、本人は目を輝かせる。

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 30代でウイングというのは、フィジカル的にもかなり厳しい。実際、若い頃にサイドアタッカーとして一時代を築いた松井大輔や乾貴士(清水)らも、30代になってからは運動量の少ない中盤にポジションを移し、技術や戦術眼を駆使しながら生き残りを図った。

「僕自身、一番良かった時はブンデスでもトップクラスのインテンシティだったという自負があります。1試合で12キロ以上を走って、30本以上のスプリントを記録するようなことを毎試合やっていたシーズンもありましたからね。それだけ動けていたということなんです。

 その頃に比べると、今は下がってしまっている。30代になって1年2か月も公式戦から遠ざかったことは想像以上に大きく響いているなと感じます。やっぱり身体の反応も悪いし、20代の頃みたいにパッと戻るような感覚はない。本当に努力しないと、そのレベルには到達しないという危機感を持ちながら、今は取り組んでいます」

 こう語る原口が「自分はまだまだだな」と心底、感じたことがある。

「僕が個人的に師事している大学の先生に、この前、『元気、このあいだのカットインはないよ。何回ボールに触ってるんだ』と言われて、その通りだなと感じました(苦笑)。やっぱりフィジカル面がプレーを難しくしているし、思うように動けていないので、そこをしっかりやらないと。取り戻さないといけないことはすごく多いです。

 タケ(久保建英=レアル・ソシエダ)に『カットイン、どうやってやるの?』と訊くと、『外に行くフリして、中に行くだけですよ』みたいに言うけど、そんな簡単なことじゃない。やっぱり彼みたいにキレイにカットインできないとダメですよね。違いを出せるようにやっていくしかないと思ってます」
 
 現状打破を固く誓い、懸命に取り組んでいる原口。それはプレー以外の部分にも言えることだ。浦和でグングン成長していた10年前の原口は良い意味でエゴイスト。「自分が、自分が」という鼻息の荒さを前面に押し出していた。

 だが30代になった今、人間的に成長した分、丸くなった印象もある。それが必ずしもプレーヤーとしてプラスになるかというと、そうとも限らないのである。

「代表でもよく一緒にサブ組にいた(堂安)律(フライブルク)と話して、メンタル的に支えていた部分もありましたけど、自分がそっち側に回ってちゃダメなんですよね(苦笑)。

 そういう話は関根(貴大)ともよくしますけど、先輩としてチームをまとめなきゃいけない立場になって、そういう仕事もしなきゃいけないのは確かだけど、やっぱり自分が一番輝きたい。俺は俺だし、やっぱりヤンチャじゃないと面白くない。30代とかそういうのは取っ払ってやっていきたいですね」

 本人もそう語気を強めたが、「尖ったところのない原口は見たくない」と思う先輩やチームメイト、ファンは少なくない。彼らのためにも20代前半の頃のような熱をピッチ上で示してほしい。ここからの変貌ぶりに大きな期待を寄せたいものである。

※第2回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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