先日、中国の業界関係者をアテンドする機会があった。訪問されたのは、深セン市商用ディスプレイシステム産業振興協会 Shenzhen B2B Display System Industry Association(BDSA)のメンバーおよそ20名ほどである。同会はLEDまたはLCDディスプレイの製造に関わるメーカー企業が主な会員で、ディスプレイそのものだけではなく素材や金具や金型など、広範囲に及ぶ。会員数は800社を超えており、専任の職員が40名という大きな団体である。
最近の彼らの活動はLEDにシフトしていて、日本の市場について、特にデジタルサイネージ領域での市場調査と視察、情報交換が今回の訪日の目的である。今回筆者は、デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)の立場で2日ほどアテンドを行った。
初日は日本の関連企業、主にLEDディスプレイのユーザー側企業4社とのミーティングを竹芝のDSCオフィスで行った。
BDSAメンバーはディスプレイづくりについては言うまでもなく、世界最大最先端のプロフェッショナルなのだが、実際の利用シーンや、そもそものユーザーの利用目的までしっかり把握やイメージできているケースは決して多くない。これは日本のメーカー企業でも同じである。
そこで今回は、そもそも何のためにユーザーやロケーションオーナーはデジタルサイネージを使うのか、という根本的な部分を中心にしたディスカッションや視察を行った。
特に熱い議論になったのは、LEDとLCDの棲み分けや、LEDの将来についてだ。まずサイズとしては100インチを境にLDCとLEDが分かれるという意見が多い。しかし実際の現場のニーズ的には50インチくらいが境界線ではないかと意見した。もちろん小型化には技術的コスト的課題が多いが、そこをクリアするべきだ、して欲しいと強く申し入れた。
また、さらなる軽量化や、フレキシブル化の可能性とニーズに関してもディスカッションした。透明シースルーのニーズも一定数以上あるのではないかとのことだった。同意である。ロケーションとしては天井に注目が集まり、床面はそうではないという部分も同じ意見だ。
2日目には東京サイネージツアーのミニバージョンとして、主要なサイネージ事例を駆け足で案内した。
予定していた視察先(視察順)
- JR山手線 TRAIN TV
- 秋葉原 AKIBA “CAP”
- 東京ドームシティ
- 東京メトロ丸ノ内線 Tokyo Metro Vision
- グランドシネマサンシャイン
- 新宿3丁目から新宿通りを歩く
- クロス新宿ビジョン
- 歌舞伎町タワー
- 新宿ウォール456
- 新宿BBB(BOX BLOCK BELT)
- 渋谷スクランブル交差点
- シティースケープ(バス停サイネージ)
- 渋谷サクラステージ
- 渋谷55ストリートビジョン
- ビッグサイネージプレミアム
- 渋谷スクランブルスクエアビジョン
ところが、当日は生憎の雨模様であり、また皆さん短い滞在日程のために買い物をする時間がほとんどないとのことで、これはもちろん経済活動を優先していただくために行程を短縮して実施した。
まずは移動も兼ねてJR山手線のTRAIN TVを案内。中国でも電車内サイネージは普及しているのだが、ドア上や最近の窓上と媒体化している例はあまり多くない。特に窓上チャンネルの3面連動のコンテンツには強い関心を持っていた。
秋葉原で総武線に乗り換えるので、途中下車をして31メートルのベルト型のLEDディスプレイ媒体、AKIBA”CAP”を案内。ここは現在1社買い切り媒体であることを説明した。ここでは湾曲したカーブ形状の設置や施工に関心が集まった。一部隙間が生じている部分について、参加者同士でディスカッションが巻き起こっていた。
続いて東京ドームシティへ。ここでは街全体の様々な場所に、LCDやLEDなど様々な形状のディスプレイが効果的に配置されている例を説明。場所によって使用目的が異なることや、街のメディアとしての統一されたクリエイティブによる東京ドームシティのモーショングラフィックスなどを紹介した。
筆者も半年ぶりくらいに訪れたが、新たに案内サインに特化した自立型のディスプレイが追加されており、ここにも定期的にモーショングラフィックスが表示されていた。
こうした巨大な施設というか、もう街と言っていいレベルにトータルコーディネートされた事例は中国にはほとんどない。そのため単にディスプレイを置くだけではなく、メディアとしてのデザインやコミュニケーションのデザインという視点の大切さを体感できたようである。
この次に丸の内線で池袋のグランドシネマサンシャインに移動する予定だったが、先を急ぎたいとのことで省略。総武線で新宿に移動した。
新宿では最初に、いまや世界的に有名で、もはや完全に観光地化しているクロス新宿ビジョンの「新宿東口の猫」を実際に体験してもらった。参加者はもちろん全員この事例を知っていたのだが、実際に見たのは初めてという人も多い。筆者も久しぶりに体験したが、コンテンツのクオリティーは継続して極めて高い。立体的に見える見え方も他を圧倒していることを再認識できた。
参加者の中のクリエイティブ会社の社長は、猫と広告のバランスが絶妙であることと、立体的に見えるクリエイティブの理由について語ってくれた。やはり猫というモチーフが継続的なクリエイティブにとっては重要なポイントであることに感心していた。それにしても今でもインバウンド観光客の格好の撮影スポットになっていて、常に30人以上の外国人がカメラを向けているのには驚いた。
JR新宿駅に戻り、自由通路の45.6メートルのLEDビジョン「新宿ウォール456」へ。反対側の柱間区のLDCとセットのメディア空間を見てもらう。滞在したタイミングではライトショー的な演出を見ることができなかったのは少し残念であった。
そして新宿駅南口の新宿BBBへ移動。ここは中国の地下鉄駅に比べると圧倒的に狭い空間なのだか、ここがLEDで埋め尽くされた状態に驚きを隠せないようであった。たしかにこのような駅は世界でもここにしかないだろう。
また、柱巻きがLCDではなくLEDであることにも注目していた。というのも中国では柱巻きのサイネージというのは実はほとんど見かけないのだ。中国の駅のサイネージは、日本の3倍以上ある広大な空間の壁面に、巨大な300インチクラスのLEDを設置するのが主流なのである。それと比較するとこんなに狭い空間に、こんなに小さなLEDディスプレイのニーズがあるということに驚いていた。
この時点で15時位になったので、渋谷には行かずにここで視察は完了。みなさんそれぞれ目当ての買い物に移動されていった。
視察全体を通じての感想は、やはりメーカーは現実的であるということ。なかなか潜在ニーズに対しての投資や研究開発に対して積極的にはなりにくいということを感じた。
なのだが、こうして日本の状況をこの目で確認し、意見を交わすことで一歩踏み出してくれる企業が増えることを期待したい。デジタルサイネージの市場の将来と発展は、表示装置であるLEDディスプレイにかかっていると言っても過言ではないからある。