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男性がかかるがんの中で一番多いとされている前立腺がん。初期の頃には「尿が出にくい」「排尿の回数が増える」などの症状が現れ、これが進行すると血尿や排尿痛、骨盤への転移による腰痛などが起こるようになるという。

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治療としては内分泌療法、手術、放射線などがあるが、そのいずれもを拒否した患者がいる。

千葉県で漁業を営む荒井賢三さん(仮名・64歳)だ。

「ションベンの出が悪いのと、残尿感?みたいのが気になったんで組合の健康診断の時に調べてもらったら前立腺がんって言われたんだよ。一番確実なのが手術だって言うんだけど、後遺症っていうの? 勃起しなくなるって言うからさ『冗談じゃねえよ』って断った。夜の営みできなくなるくらいなら死んだ方がマシだもん」

「…どっちにしろ、死んだらできなくなるのでは?」という筆者の問いかけにも「だから死ぬまでしたいからだよ。今手術してすぐにできなくなるより、余命ギリギリまでできた方がいいに決まってるでしょうが!」と荒井さんは譲らない。

荒井さんがここまで性に執着する理由は、2年前に再婚した15歳年下の愛妻の存在にあった。

「嫁姑問題で前の女房が出て行ったのが10年前。それからずっとやもめ暮らしだったんだけど、ひょんなことから今の女房と知り合ってさ。年も離れてるし、美人で気立てもいいし、絶対俺なんか相手にされないだろうと思ったけど、結婚してくれるって言うからさ。こんな夢みたいな話『この先絶対ねえな』って思って、認知症になり始めた90歳のおふくろを施設に受け入れてもらって、やっと一緒になったんだよ」

荒井さんは船を買い換えるために貯めていた資金を使って、自宅をリフォーム。飛行機が苦手だったにもかかわらず、妻の夢をかなえるためにハワイで挙式も行い専業主婦にさせるなど、妻を溺愛した。

妻は40台に見えないくらいピッチピチ

その愛情に応えるかのように、妻も家事や身の回りの世話など甲斐がいしく夫に尽くし、仲間内では「おしどり夫婦」と評判になった。

そんな荒井さん夫婦の円満の秘訣が「夜の生活」らしい。

「何の不自由もさせてないとはいえ、こればっかりはおろそかにしちゃダメだと思ったし、こればっかりは満足させてやるのは俺しかいないわけじゃん? 仲間内でも『女はアッチさえ満足させてれば離れない』っていうのは常識みたいなもんからね。自慢じゃないけど、どんなに疲れていても面倒くせえなあって思うことがあっても、夜の生活は一切手を抜かなかったよ。だから、見てみな、うちの女房、40台には見えないくらいピチピチしてるから!」

妻を性的に満足させることが「夫の甲斐性」だと自認する荒井さんにとって、それができなくなることは到底受け入れられないようだ。

「女房は『他のことはいいから、死なないで』って言うけど、いざできなくなったらやっぱ不満だと思うんだよ。まだまだ女盛りなのに我慢させるなんて可哀想だし、かと言って浮気なんかされちゃたまらないじゃない? もうここは自力でがんと戦うしかねえなって」

一度言い出したらきかない頑固な荒井さんに主治医もお手上げだそうで、今のところ積極的な治療はしていないという。

「民間療法っていうの? ノコギリヤシのジュースとか免疫力をあげるサプリとか飲んでるよ。三食女房の作った美味いメシ食って、夫婦仲良くしてれば死ぬに死ねないから大丈夫だよ!」

そう荒井さんは豪語するが、奥さんの胸中はいかばかりか…。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。