70mmという画角を考える
最も引きとなる70mmという画角を考えてみる。私の中でのいわゆる標準域画角というのは40mm〜60mm程度のレンジでいつも考えている。落ち着いて景色を見ている時が40mm、やや意思を持って見ている時が50mm、興味を持って見ている時が55〜60mmという具合だ。皆さんの中にもそれぞれの標準があると思うが、ここを起点としてよりワイド、より望遠、という具合で絵作りを考えるようにしている。年々、この基準点をしっかりと捉えることに私は拘りが強くなっている気がする。
そうしてみると、70mmという画角は「しっかり注視して見ている標準画角」だと考えられないか。85mmになるとややファンタジーが働く画角になりポートレートなどで活躍する中望遠域になってくる。しかし70mmであればまだ標準域の延長として考えて良い、という結論に達した(この点、賛否両論があることを自覚の上で)。よって、この70-200mmを1本で作例を作る希望が見えてきたのである。
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このレンズで「ドラマ」を撮ってみたい心境になった
70-200mmというレンジをうまく使って「何か映像作例」を製作すると考えた時に、何かドラマを撮ってみたいという衝動がふと湧いてきた。被写体にチカラがあるもので、ジンバルなどの特機に頼らず、シンプルに絵ヂカラで作例を作ってみたいと思った。
映画ではなくドラマとしたのは、24Pのシネマ雰囲気のマジックに左右されず、30P編集とすることでバイアスを省く意味を込めてみた。
今回はNHK朝の連続テレビ小説(朝ドラ)にもご出演の関西在住の役者「有馬唯珂」さんを起用し、一人芝居をしていただく事にした。主人公の感情の機微を捉えることに注力してみた。もうこうなると後戻りはできない。難度が勝手に上がってゆく。
また、有馬さんの魅力が発揮できるよう、脚本は大阪弁で私が書き起こしたもので、脚本内容へのご指摘はご勘弁願いたい(笑)。
映像作例を今一度、上記までの経緯を踏まえて、自分がもし完全ワンマン撮影で芝居もつけながら行うとしたら、と考えながらご笑覧いただきたい。
環境光をなるべく活かした。一部お顔が暗くなるシーンがどうしてもあったため、その時はC400の顔認識AFをONにしカメラはFIXとして、自分でレフ板でお顔を起こしつつズームもするというカットがあった。芝居をつけながらワンマン撮影する場合、カメラが持つAF機能はもはや必須だ。
ちなみにこの記事の趣旨から少し外れるかもしれないが、音声収録においては有馬さんにワイヤレスピンマイクを仕込みC400にてダイレクトに音声収録を行い、ロケの最後に車の中でアフレコ用音声オンリーをZOOM F3とガンマイクで収録した。その素材を使ってFCPで編集しただけである。
また、このロケ当日は天候に恵まれ晴れではあったものの、木枯らし一番が吹いた日でもあり、有馬さんには時に寒さに耐えていただくなどケアが十分に行き届かない中で頑張っていただき、しっかりと本を頭に入れて演じていただけたこと、ここに感謝の意を表したい。
飛行機ショットにおいては、2xエクステンダーを装着しC400のセンサーモードをSuper35モードにして撮影した。つまりフル35mm換算で224-640mmのレンジでのショットだ。被写体は高速で手前に向かってきつつ、そのまま飛び立ち、その後ろ姿を見送るまでをノーカットで被写体フォローして撮る。カメラのAF機能を積極的に使い、サーボズームでのズームワーク、地面から空へカメラを振る事による露出変化はレンズのアイリス環でマニュアルフォローしている。しかも、シナリオの絵の繋がりを考慮して飛行機の機体はJALに絞るなど一発勝負的な撮影をしていた。
芝居シーンにおいても1.4xエクステンダーを使いスローズーム演出もトライしてみた。動き出しのイーズには課題がまだ残るものの、十分に実用に耐えるスローズームができた。
エンド近くで主人公が空を見上げ飛行機が飛び去る締めのシーンでは70mmという標準画角でうまく捉えられるよう、すこし絞って被写界深度を稼ぎつつ、撮影アングルとポジションをじっくりと探った。有馬さんには根気強く丘の上に立っていただき、JAL機のタイミングにも合わせながら粘り強くトライして撮れたカットである。
こちらは今回のセッティング上でのプチポイントを並べたものだが、実にコンパクトな機材構成でロケが成立している。なお、外部モニターとして今回はATOMOS NINJA Vを装着しているが、念の為にAF動作のキャラあり映像を収録するために装着しているだけなので、本編の作例映像にはその素材は関係がないことを補足しておく。また、ベースプレートは使わずテクニカルファーム社のTF PLATE SDVをつけるだけで前後バランスが取れ、ズームワークではLibec社の汎用ズーマーをC400のLANC端子に接続して利用した。
Cinema EOS C400とRF 70-200mm F2.8 L IS USM Zとの相性は抜群で、朝から夕方までワンマン撮影で比較的に丁寧に撮影をこなしたわけだが、機動力もよく何ら問題なく撮影を終えることができた。
レンズ自体は10月中旬に受け取っていたが、映像作例に使用するC400は11月4日に受け取った。そこから作例完成までの流れは上記のように、実質4日間だ。編集作業も別仕事のロケ地のホテルにて、部屋にあったテレビにHDMIでノートPCを繋ぎサッと編集しただけだ。
70-200mm 1本のみで、短期間でショートドラマを製作するという私のチャレンジはこうして終わったのである。実に楽しい時間を過ごすことができた。