奇跡的に継承できた「カネ餅」、存続危ぶまれる「マタギ文化」の数々
高齢化率日本一の秋田県、子ども世代はマタギを継がずに市街地に住む。現在活動するマタギの3分の1ほどを占めるのが、益田さんのような移住者だ。
「継承にはあと7年がリミットと思っています。今のシカリが77歳、7年後といったら84歳です。『ゴールデンカムイ』の元マタギのキャラクターが狩りの際に携行していた非常食の「カネ餅」、あれはギリギリでした。
名前は知っていましたが、製法までわかる人が誰もいなかった。たまたま地元のお母さんが知っていて作ってくれたんです。その後まもなくお母さんは亡くなってしまって。今まさに消えてしまう文化だったんですよ」
秋田県といえば近年、クマ駆除への批判が全国から集まったことも記憶に新しい。
「クマの生息域には偏りがあるのに、全国を同列に語ることに無理があると思っています。動物園でしか見たことのない、お話の中の生き物としてクマが議論されるのは少し怖いですね。
昔は熊の胆など高値で取引される部位もあって、不正を防ぐために民家や神社の前など人が集まるところで解体していたそうです。地域の子どもたちも自然にクマの生態を知るわけです。でも今は、阿仁でも人前では解体しません。猟などの写真撮影にも慎重派が多いです」
記録を残すことの大切さの一方で、見ず知らずの人から意見が殺到するネット社会の危うさにもさらされている。
「矛盾に聞こえると思いますが、マタギは少しクマの姿を見ないと『あいつら元気にしてるかな』ととても気にかけるんですよ。大事にしながら、殺して食べる。言葉にするのが難しいのですが、それがクマとともに生きるということなんだと思います」
独自の精神文化に共感して集まった新世代のマタギは全員兼業だ。益田さんはマタギの活動を少しでも収益化しようと、個人事業「もりごもり」でクロモジ茶を販売する。存続が危ぶまれるマタギ文化の中で、益田さんたち移住者の試行錯誤が続く。
取材・文/尾形さやか 集英社オンライン編集部