かつて、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)が、北朝鮮における性的虐待の被害証言をまとめた報告書を発表し、世界に衝撃が走ったことがある。そこには98ページにわたり「北朝鮮では望まない性的接触や暴力が蔓延し、日常生活の一部とみなされるようになった」との実態が記され、当局者もそれを把握しながら見て見ぬふりで被害者が訴え出ないため、ほとんど処罰されることがないと詳述されていたからだ。

 ウクライナのメディア「dsnews.ua」などが、ロシアに派遣された北朝鮮兵5人が、ロシアの女子大生(28)に対し集団で性的暴行に及んだと報じたのは11月19日のことだ。

 報道によれば、女性はロシア民族友好大学(RUDN)に通う大学生で、ロシア駐留北朝鮮兵の現地適応を支援するためのプログラムに参加し、被害に遭ったという。

「彼女が参加したのは、ロシア国防省とRUDN言語学部とが共同で行う、北朝鮮軍の言語・文化・生活面での適応を支援するためのプログラム。12日にプログラムに参加するため、戦争地域から15キロほど離れたクルスク地域にあるクロムスキー・ビキ村を訪ねたそうですが、そこで4~5人の北朝鮮兵にかわるがわる性的暴行を受けたと本人が証言しているんです」(外報部記者)

 女性の証言によれば、兵士たちは突然彼女の口に展着テープを貼り手を縛ったうえで、服を脱がせ殴り倒した後、2時間にわたり性的暴行に及んだといい、暴行された後、隙をみて命からがら部屋から逃げ出したと語っている。

「テレグラムチャンネルで公開されたインタビューで被害女性は、『正確な人数が分からないが、本当に恐ろしかった。これからどうやって生きていけばいいのか分からない』と涙ながらに訴えています。北朝鮮兵士らを支援するためにロシア国防省が設定した場所で兵士らが犯行に及んだことが事実であれば、大変な問題。ほかにも同様な事案が発生した場合、両国の信頼関係を揺るがす可能性もある。北朝鮮では望まない性交渉が日常的に行われている、との人権団体の報告もあり、支援の現場でも大きな波紋が広がっているようです」(同)

 冒頭で紹介したHRWの調査によれば、北朝鮮における治安機関の主な仕事は、あくまでも体制維持で、国民の生命や安全は二の次三の次。そのため、個人的な被害については基本、ノータッチの場合が多いのだとか。加えて、北朝鮮では性犯罪に関する教育が行われていないので、被害女性らが自分が被害にあっていることを認識していないケースが多い、としている。

「階級制と家父長制が強い北朝鮮社会では、いまだ男尊女卑の考え方が定着しています。そのため男性側には、こちらが求めれば女性は従うものといった意識があり、性的虐待を容認する雰囲気が蔓延しているといいう。つまり、男性側の加害者意識が希薄なんです。しかし、むろんそれは北朝鮮国内でのこと。Me Too運動などで女性の人権が叫ばれる現代で、そんな理屈が通用するわけもない。そんな北朝鮮の男性たちが数万人もロシアへ入っていくわけですから、何が起こるかわからないというのが正直なところでしょう。ただ、今回の女性の訴えが事実だとすれば、金正恩総書記にとっては大誤算の赤っ恥ということになります」(同)

 かつてHRWのケネス・ロス代表は、「北朝鮮では性的暴力は公然と行われ、野放し状態で、広く容認された秘密だ」と強調していたが、人権団体もロシアという「野」に放たれた北朝鮮兵の行動に目を光らせている。

灯倫太郎

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