2024年はドイツ代表にとって上々な一年となった。母国開催となったEURO2024ではベスト8敗退と、願っていたほどの躍進を遂げることはできなかったものの、とはいえ負けた相手は優勝したスペイン。延長戦の最後までどちらに勝利の女神が微笑むのかわからないスリリングな展開だったこともあり、総じてドイツ国内ではポジティブなファンの声が多数を占めていた。
このEUROを最後に、長年ドイツ代表の主軸として活躍したマヌエル・ノイアー、トーマス・ミュラー、トニ・クロース、イルカイ・ギュンドアンのレジェンドが代表引退を表明。その不在にファンは寂しさを感じつつも、ドイツ代表はその穴を感じさせない見事なチームパフォーマンスで、9月以降の代表戦で納得の結果を残している。
ユリアン・ナーゲルスマン監督は完全にチームとしての基盤を作り直したようだ。一年前とは何もかもが違う。日本代表に昨年9月の親善試合で惨敗を喫し(1-4)、ハンジ・フリック監督が解任。ナーゲルスマンが就任したものの、悪しき流れは簡単には変わらない。昨年11月のトルコとオーストリアに連敗した時には、「もうこれはどうにもならないのかもしれない」と思わざるをえないほどの焦燥感があふれかえっていた。「あの時期は谷底だった」と指揮官自身も後に振り返るほどに。
そんなドイツ代表がいままた躍動感のあるコンビネーションサッカーをみせ、ファンが熱を帯びた応援でサポートするようになったのだから、ナーゲルスマンの手腕にはやはり素晴らしいものがある。いまは主力に欠場が出ても戦い方にぶれがない。10月の代表週間ではデニス・ウンダフ(シュツットガルト)がゴールを量産。11月にはCFティム・クラインディーンスト(ボルシアMG)が抜群の機能性を発揮するなど新戦力が続々と台頭している。
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選手の代表への思いがまとまりだした。そしてファンの代表愛が戻った。11月16日にフライブルクで行われたボスニア・ヘルツェゴビナ代表とのネーションズリーグのチケットは販売開始40分で完売。「ほぼ完ぺき」とナーゲルスマンが絶賛した試合内容で、7-0と圧勝した。18年ワールドカップのグループリーグ敗退後、ドイツ代表はこうした中堅国との試合で大苦戦することが少なくなかったことを考えると、まさに“蘇った”という表現があてはまりつつある。
洗練されたポジショニングでハイレベルのポゼッションを実現し、ただボールを回すだけではなく、チャンスメイクの質と頻度も大幅にアップ。ジャマル・ムシアラ、フロリアン・ヴィルツの両雄は試合を重ねるごとにその存在感を果てしなく高めている。
あれほど不安定で、プレー基準がブレまくっていたドイツ代表が、明確なイメージとともに、時に想像力豊富に、時に闘争心全開で汚れ仕事に汗をかき続けている。またナーゲルスマンは「試合に負けたらその事実を受け入れなければならない。だが負けることも必要だとは思わない」ときっぱり語るが、その心構えはドイツ代表に確かに浸透している。
まだ世界のトップオブトップとの差があるのは否めない。ナーゲルスマンも「(世界トップへ)近づいては来ているし、多くの望ましいことがチームにはある。だが我々の成長はまだこれで終わりではない。まだいくつかのステップを踏まなければならない」と慎重な姿勢を崩さない。
だが光明をなかなか見いだせなかった18年以降の暗黒期は完全に抜け出したといえるだろう。26年W杯に向けて視界は良好だ。
取材・文●中野吉之伴
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