攻守の重要局面となる「バイタルエリア」で輝く選手たちのサッカー観に迫る連載インタビューシリーズ「バイタルエリアの仕事人」。第46回は、サンフレッチェ広島のMFトルガイ・アルスランだ。
トルコ出身の両親のもと、ドイツのパーダーボルンで生まれ、ドルトムントの下部組織で頭角を現す。2009年にハンブルクでプロデビューを果たし、その後はトルコのベシクタシュやフェネルバフチェ、セリエAのウディネーゼなどを渡り歩いて主力としてプレーした。
昨年の夏にはオーストラリアのメルボルン・シティに加入すると、リーグ戦で24試合に出場して13ゴール・7アシストを記録。オーストラリアプロサッカー選手協会(PFA)が選ぶ2023-24シーズンのベストイレブンにも選出された。
そして、今夏にサンフレッチェ広島に完全移籍で加入した経験豊富な34歳が、Jリーグ参戦を決断した理由を明かした。
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日本に来る前から、Jリーグが今、世界的に見てもかなりクオリティが上がってきているのは知っていましたし、素晴らしい選手がたくさんいるというのも聞いていました。それが移籍を決断した理由の一つです。そして、(ミヒャエル・)スキッベ監督と(セハット・)ウマルコーチの存在も大きいですね。彼らと大きな目標、具体的にはやはり優勝、タイトルを獲るということをともに実現できると思い、広島への加入を決めました。
スキッベ監督はドイツではすごく有名な方で、もちろん以前から知っていましたし、彼も僕のことをユース年代の時から知ってくれていたみたいです。また、自分の負けず嫌いな性格もよく理解してくれていて、試合だけでなくゲーム形式の練習でも強い気持ちを持って臨む姿勢というのを分かってくれています。
広島から正式なオファーが来る前に彼と少し話をさせてもらって、『本当にレベルの高いリーグだから、もし日本に来るなら中途半端な気持ちではダメだぞ』とアドバイスをしてもらいました。
実際にこのクラブに来てみて驚いたのは、チームメイトたちのクオリティがすごく高いことです。Jリーグの他のチームと比べても、広島には本当に優れた選手たちが多いと感じています。
また、彼らのトレーニングに取り組む姿勢も素晴らしい。自分自身、チームメイトたちから吸収できることはたくさんありますし、僕もこれまでの経験を踏まえて伝えられることがあると思うので多くを学んでほしいです。そしてみんなにはリスペクトの心を持って接しています。
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今年7月に広島の一員となったトルガイは、加入後すぐに存在感を発揮。デビュー2戦目のセレッソ大阪戦(2-0)では、いきなり移籍後初得点を含む2ゴールの活躍を見せて、強烈なインパクトを与えた。
さらに8月31日のFC東京戦(3-2)ではハットトリックを達成するなど、中盤の選手でありながら、ここまでリーグ戦12試合で7ゴールをマークしており、優勝を争うチームの攻撃を牽引している。
広島の救世主が、すぐにチームにフィットし、ゴールを量産できている要因を語ってくれた。
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日本に来て、もちろんゴールは決めていますが、自分はどちらかと言えば点を取る選手ではなく、中盤でゲームを作るタイプだと認識しています。数字はそこまで気にしていなくて、チームプレーに徹すること、まずはチームが勝つのが一番大事だと考えています。でも、その意識がゴール数にも表われているのかなとは思っています。
チームに溶け込むために重要なのはやはり、自分を理解してもらえるように働きかけること、そして逆に僕も彼らを理解して、どのように良さを引き出してあげるかを考えることだと思っているので、そこに注力しています。
日本のサッカーは今まで自分がやってきたサッカーとは違っていて、ダイレクトプレーが多く、スピードがとにかく速いです。それでもJリーグに早くアダプトできたのは、自分がいろんな国でプレーした経験があるからかなと思います。
これまでドイツだけではなく、トルコやイタリア、オーストラリアでもサッカーをしてきたなかで、ピッチ内だけではなく普段の生活においても、それぞれの国の文化もしっかりとリスペクトしなければならないと身をもって経験してきたのは大きいです。
あとはメンタリティの部分ですね。自分が若い頃に大きなオファーをもらった時、もしかしたら間違った決断をしたこともあるかもしれません。しかし、自分の決めたことに対して一度も後悔をしたことはないですし、それを貫いて、全力でやりきるのが自分のスタンスなので、その自分の考え通りに行動してきた結果、どこへ行っても自分のパフォーマンスができているのだと思います。
広島では何年か後にサポーターのみなさんに『昔、トルガイっていう凄い選手がいたんだよ』って思い出してもらえるようなプレーヤーになりたいという気持ちでいつもピッチに立っています。
左右の足から繰り出される質の高いパスやシュート、類稀なテクニックから“紫の魔法使い”の異名を持つドイツ人MFは試合中、どんなことを考えてプレーしているのか。また、バイタルエリアを攻略するうえで意識していることとは――。
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自分は昔から闘志を前面に押し出すプレーヤーで、それは今でも変わっていません。日本に来てから、リーグ戦だけでなくカップ戦にも出場しましたが、天皇杯・準々決勝のガンバ大阪戦(1-2)は、おそらく僕がピッチにいる間にビハインドを負って、そのまま敗れてしまった日本での初めてのゲームでした。
とても悔しかったのを今でも覚えていますし、チームの勝利はもちろんのこと、自分が試合に出ている間には絶対に負けたくないという強い意志を持って、いつも試合に臨んでいます。
プレーの面で言えば、周りを見ることがとにかく大事な要素だと思っています。たとえば先日(10月23日)のアジア・チャンピオンズリーグ2のグループステージ第3節・シドニーFC戦(2-1)では、相手が自分のプレースタイルをよく知っているというのもあり、かなりタイトにボールを奪いにきました。
それは試合前から自分も予想はできていたのですが、そんな相手に対してどう対応したのかというと、ワンタッチ、ツータッチでシンプルにプレーしたり、相手2、3人を自分に引き付けて味方に時間やスペースを与えるように徹しました。
もちろん自分が得点に直接絡むことも大事ですが、時には囮(おとり)になって味方を活かすことで、結果的にチームとして勝利が得られたら良いのです。
このようにピッチの状況を確認できていれば、自信を持ってプレーできたり、怖がらずにボールを受けられるようにもなります。
バイタルエリアでもそれは同じですが、ここでのプレーはより時間やスペースが限られるので、ボールをコントロールするのか、ワンタッチでプレーするのか、判断には特にこだわっています。
※後編に続く。次回は11月30日に公開予定です。
取材・構成●中川翼(サッカーダイジェストWeb編集部)
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