1対1の対決を制して違いを生み出すウイングは、サッカーの花形ポジションだ。パサーやストライカーにはないスペクタクルを提供する。スペイン紙『ムンド・デポルティボ』の編集長、サンティ・ノジャ氏はその役割について次のように見解を述べている。
「ストリートサッカーでは、ドリブラーが王様だった。ゴールスコアラー以上にだ。観客にとって、ゴールと勝利は祝うもので、ドリブルは楽しむものだ。ただ時代の流れとともに、ドリブルよりもパスに重きを置く監督が増えていった。試合のコントロールを求めた結果、個の打開力の重要性が低下したからだ。しかし最近また、卓越したドリブル性能を持ったクラックを抱えることが、事実上マストであることに誰もが気づき始めている。だからチームには、ピッチ上でのポジションによって、“コルセットで縛られた選手”と、“ドリブルのライセンスを持った選手”の主に2つのタイプが存在する。サッカーのタスク化には一長一短がある。悪い面の1つは退屈な試合が増えていることだ。そんな中、ドリブルは常にエキサイティングだ。しかし同時にリスクをはらんでいる」
そのサッカーのタスク化の影響もあり、スペインでもウイングはたびたび絶滅危惧種と叫ばれてきた。代表チームに目を向けても、故ルイス・アラゴネス監督が2008年、シャビ、アンドレス・イニエスタ、セスク・ファブレガス、ダビド・シルバで構成する「クアトロ・フゴーネス(4人の創造主たち)」を軸に据えたショートパス主体のパスサッカーに舵を切って黄金時代の礎を築く中、ホアキン・サンチェスをはじめとするウイングは居場所を失った。以降もウイングの存在感は低下し、カタールW杯でのニコ・ウィリアムスがそうだったように、攻撃のオプションの1つにとどまることが多かった。
それがそのニコ・ウィリアムスの成長、ラミネ・ヤマルの急台頭を受けて、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督が従来のパスサッカーに縦の速さを加味し、今年スペイン代表をEURO2024制覇に導いたのは周知の通り。先の11月シリーズでも、ふたりの若きウインガー、ブライアン・サラゴサ(オサスナ)とブライアン・ヒル(ジローナ)が活躍を見せるなど、すっかりウイング大国の様相を呈している。
それはラ・リーガでも同じで、ここにきて上記4人に加え、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ(ともにレアル・マドリー)、アブデ・エザルズリ(ベティス)、アンデル・バレネチェア(レアル・ソシエダ)、チデラ・エジュケ、ドディ・ルケバキオ(ともにセビージャ)らドリブル突破を得意とするウイングの復権が顕著だ。もちろん久保建英もその1人で、カットインから左足を振り抜くプレーはスペインでもすっかりトレードマークになっている。
ウイングに必要なものの1つが、積極果敢に仕掛ける姿勢だ。裏を返せば、個人プレーに走るきらいがあるということだ。しかし、たとえば現在誰もが認めるクラックに成長したヴィニシウスは、デビューしてから数年間、ボールロストを繰り返しても決してチャレンジ精神を失わなかった。スペインでは個人プレーに走る選手を「chupon」(チュポン)と表現するが、ウイングの場合は、必ずしもネガティブな意味合いではないのだ。久保もまさにそうで、地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』の看板記者、ミケル・レカルデ氏は眉を顰めるファンが一部にいることを認めながら、失敗を恐れずにチャレンジしつづける姿勢を絶賛している。
ノジャ氏が強調しているように、スペクタクルは常にリスクと隣り合わせだ。そんな中、ヴィニシウスや久保は積極果敢なドリブルでサッカーの魅力を体現しながら、ラ・リーガにおけるウイングの復権を力強く後押ししている。
文●下村正幸
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