「障害児を産んだからこそ得られた、パーフェクトな人生」江畑早苗さんが子育てを通じて掴んだキャリア

働けなかった10年間を取り戻すには、どんなに頑張っても足りない気がした

ーー建設会社で働くうちに、業務効率化をきっかけにプログラミングに出会ったことが、えばたさんのキャリアを大きく変えたと伺いました。

子育てをしながら時短で働き続けるためは、業務効率化しないとなりませんでした。事務作業のルーティン業務をもっと楽にできる手段を探すうちに、見つけたのが「Google Apps Script」(GAS)でした。

それからは、タカハシノリアキさんの本『Google Apps Script完全入門』(秀和システム)を使ったり「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(通称、ノンプロ研)に入ったりして、ひたすらGASを学ぶ日々でしたね。ノンプロ研では、仲間と一緒に学ぶ楽しさを知って、経験の幅がぐっと広がりました。社外の誰かと一緒に何かする楽しさ、一人ではできない経験をできる面白さを味わい、今でもたくさんの素晴らしい経験をさせてもらっています。

GASを実務に使うと、狙い通りにどんどん業務効率化できて、すごく手応えがありました! 担当する業務内容も、前よりもっと楽しくてやりがいのある内容に変わり、人生が上向いていく実感がありました。ようやく、出産前の人生と今の人生がつながって見えてきた感覚です。

ーー育児と仕事、そしてGASの学習を同時並行でこなされたんですね。

あの頃の私は、ただがむしゃらでした。働きたくても働けなかった10年間を取り戻したくて焦っていたのだと思います。私が育児に専念していた10年間、同世代の女性たちは積み上げてきた実績があります。でも私には何もない。その事実が私を駆り立てて、どんなに頑張っても足りない、なぜか急がないといけない気がしていました。

毎日何かに追い立てられている気分で、今振り返ると本当に苦しい時期でしたね。それでも、働くことが叶わなかった10年間の悔しさを思うと、苦しくても働けている幸せのほうが大きかったです。プログラミングを学ぶ楽しさと、「何かを変えられるかもしれない」という期待に溢れていました。

急いで学んだことで自分のキャパシティが広がりましたし、建設業界のIT勉強会を主宰したりCADを学んだりと、GASに限らずスキルの幅を広げることもできました。いろんな意味で無理をしたけど、得たものはとてつもなく大きかったです。

「毎日、息子の療育園とリハビリに通っていた頃です」(えばたさん)

GASをきっかけに、働き方も変わりました。息子のケアをしながら働けるよう、リモートワークを許可してもらえたんです。コロナ禍で一時的に叶ったリモートワークを、コロナ収束後も続けたい。そのためには、リモートワークでもしっかりと成果が出せることをわかってもらう必要がある。そう考え、業務改善の実積をコツコツと積み重ねました。当時、私が仕事を続けるためにはリモートワークをするしかないという切実な思いがあったので、必死でしたね。

ーー建設会社で働きながら、日常業務のほかにも学びの幅を広げたのはなぜですか?

何かをやればやるほど「私ってまだまだだな」と思うんです。いまだに、20、30代の後輩社員に対しても「私は出遅れている」という気持ちがあります。できることはほんの少しだから、ちょっとでもマシになろうという気持ち。それがポジティブに作用して、「今日の私は、昨日の私よりも進化していたい」と考えるのかもしれません。

昔の私は、フルタイムで働きたくても働けないこと、思うようにキャリアアップできないことを悔しく恨めしく思っていました。でも、このハンディがあったからこそGASに出会えたし、無我夢中で努力できたし、結果的にたくさん成長できました。

私には、「働くこと=尊いこと」という意識が人一倍強くあるんですよね。産後、働きたいのに働けない時期があったからこそだと思います。働くって自分を何よりも成長させるし、それってすごく幸せなこと。昨日の私と今日の私は違うのだと感じられれば、それは生きる喜びになるし、それをいちばん実現してくれるのが仕事です。

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コーチングを受けたのがきっかけで自分の夢に気づき、転職

ーーえばたさんは最近、ユニバーサルデザインを推進している企業に転職されたと伺いました。

はい。転職したきっかけは、ノンプロ研でコーチングを受けたことです。プロコーチと対話する中で、自分が「性別や障害の有無に関わらず、誰もがのびのびと自分らしさを発揮できる社会を実現したい」という思いを強く持っていることに気づきました。

そのために私ができることは何か、1年ほど考え続けた結果、転職を決めました。今は毎日、同じ思いを持つ仲間たちと働けることの喜びを噛み締めています。

リモートワーク中のひとこま。

ーー仕事に対する考え方は変わりましたか?

転職した当初は、「過去の経験にとらわれず、自分がやれそうなことを何でもやる!」という気概でいました。でも、今いる会社を成長させることが、私の夢に近づくいちばんの近道です。だから、私の力や経験を最大限に活かして会社に貢献するのがベストだと思いました。結局今は、前職と同じ業務改善に真正面から取り組んでいます。

前職での私は未熟で、自分の目の届く範囲の仕事を改善することしか考えていませんでした。でも転職を機に、「経営者から見ても価値がある成果を出したい、経営にインパクトを与えたい」と考えるようになりました。私はその力を持っていると信じていますし、そう思うことで強くなれる気がしています。

ーーご転職も経て、ますますキャリアに邁進されるえばたさん。ご家族の皆様はどうご覧になっていますか。

私は、思い込んだらとにかく突っ走る性格。それを家族はちゃんと理解しているので、やりたいことを思う存分やれている私を見てホッとしていると思います(笑)。働く中では、理不尽な目にあうこともあります。さらに最近転職したこともあり、私自身いろいろな価値観や考え方が変わった部分もあると思います。

でも、家族は何も変わりません。私がどんな仕事をしていても、頑張っていても怠けていても、家族はずっと同じように隣にいてくれます。そのことに感謝しています。夫から変に“女の子扱い”されることなく、1人の人として、またパートナーとして尊重されていることもとても心地いいです。何があってもごはんだけはおいしそうに食べてくれる娘と、私の寝坊をいつまでも待ってくれる息子も、私の心の支えです。

昔は、障害を持つ息子を産んだことで、私はいろんなものを失ったと思っていました。でも20年以上一緒に暮らして、今思うのは「息子がいたからこそ手に入ったもの、得られた経験の方がずっと多い」ということ。私のこの人生も悪くない、むしろパーフェクトだと感じるようになりました。すべてのきっかけは、プログラミングに出会ったことです。今は本当に満たされた毎日を送っています。

伊勢神宮への家族旅行にて。「4人と1匹での生活に、心から満たされています」(えばたさん)