野球の国際大会「ラグザス presents 第3回 WBSC プレミア12」は11月10日から同24日にかけて開催された。東京ドームで行なわれた決勝戦は日本と台湾が今大会3度目の顔合わせとなり、台湾が4対0の完封劇を飾り悲願の初優勝を遂げた。大会期間中には大勢の台湾ファンが球場に足を運び、決勝は超満員4万1827人が集結。そのうち約1万人は台湾の応援団が三塁側内野席を占拠して声援を送った。その異例の光景は現地で取材を続けた地元記者でさえ鳥肌が立つほどだった。
台湾野球の歴史が大きく塗り替わった。日本が4点を追いかける9回1死一塁、5番の栗原陵矢の打球が一ライナーに倒れると、一塁走者の森下翔太は戻れずタッチアウト。ゲームセットの瞬間、三塁側内野席を埋め尽くした台湾ファンは割れんばかりの大歓声が上がり、マウンド付近には台湾ナインの歓喜の輪ができた。
試合後には今大会24打数15安打で打率.625、2本塁打、6打点の大活躍で大会MVPに選出された30歳のチェン・ジェシェンが表彰式終了後もスタンドに残ったファンに向かって深々とお辞儀をした。チームをまとめ上げた主将が顔を上げると目は潤んでおり、まさに男泣き。そのシーンに地元ファンは目頭を熱くさせた。
プレミア12の取材で連日、東京ドームに足を運んだ台湾メディア『風傳媒』の専属記者である黄信維氏は5回表に台湾が2本のアーチで一挙4得点を奪い、客席のボルテージが最高潮に上がった場面について、「こんな雰囲気は初めてです。本当にすごい…」と熱烈な応援に脱帽したという。それだけ、台湾にとってタイトルにかける本気度は相当なものだったという。
では、なぜこれほどまで台湾は野球熱が高いのか。同記者に話を訊くと、「台湾にとって野球は、”国球”という存在だからです」と称し、世界と戦える唯一無二の球技だと強調する。
「いろいろなスポーツのなかで、残念ながら台湾は世界レベルでは低い方です。しかし、野球に関しては1992年のバルセロナ五輪で銀メダル(※準決勝で台湾は日本を2対0で撃破)に輝いています。だから野球では日本やアメリカ、韓国など世界の中で強い国と互角に戦うことができます。他のスポーツでは全然できないから(苦笑)。台湾にとって、いつも野球は”国球”という存在なので応援に熱が入るのです」 また台湾野球の特徴として、日本の野球ファンの間でも熱い視線が注がれた台湾チアの存在も人気を押し上げていると説明する。「台湾のチアは日本と全然パフォーマンスが違いますよね。ファンからのサイン攻めや記念撮影もいっぱいあります。僕は日本のメディアの皆さんと一緒に野球を本質的に見に行っているんですけど(笑い)。しかし、今は台湾の方でも野球を観戦しに行く方がとても多いので、球場に入ってチアと写真を撮ったり挨拶したりとか、毎年野球を見に行くファンは確実に増えていますね」と、実状を補足した。
プレミア12で初の栄冠を掴んだ台湾は来年2月21日から25日まで、2026年3月に開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)本大会の出場切符をかけた予選に出場する。前回優勝の日本など16チームはすでに本大会の出場権を得ているため、日本との再戦を熱望している。
「台湾と日本は強い友情があります。実は記者会見の中で台湾の曽豪駒監督は日本にいる台湾ファンだけでなく、日本の皆さんにもとても感謝していました。他チームの試合にもかかわらず台湾チームを応援していたことに、とても感激していました」
歓喜の戴冠後、台湾チームは東京ドームを埋めた日本人の観客らに向けて一礼。優勝セレモニー後、国際大会では優勝チームがシャンパンを掛け合う「シャンパンファイト」が慣例となっていたが、台湾ナインはなんとこれを辞退。その理由について地元メディアの報道によると、「ここは日本のプロ野球の会場だ。この喜びは台湾に持ち帰ってから祝いたい」と曽豪駒監督が話したという。
最後まで日本野球に敬意を表す、台湾チームの姿勢には感服するばかりだった。
取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)
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